九、老猫ソル、ついにお迎えか。

1週間が経ち、検査結果が出る頃だろうと病院に行ったところ、意外な結果が待っていた。

 

「コロナですね」

先生は、検査報告書の1カ所だけプラスの記号になっている場所を指差して言った。

意外過ぎる結果だった。まさかコロナにまで罹っていたとは。

 

猫界においてもコロナは禍を巻いているようで、体調の悪いコを調べると陽性であることが多いらしい。

ブリーダー施設などで抜き打ち検査すると、無症状にも関わらず半数は陽性などということもあるとのこと。

この待合室か診察室で感染したのだろうが、ここに来ていなければとっくにサヨウナラだったのでそれはもう仕方がない。

 

ルナは大丈夫なのかという不安が真っ先に頭をよぎる。

が、感染している可能性は高いが無症状で終わったのだろうとのこと、ひとまず安心した。チョビ漏れ問題で隔離する前はエサ皿も共用になってしまっていたのでおそらく先生の言う通り彼女も感染していただろう。

 

重篤な症状が出てしまったソルに関しては、コロナウィルスが変化して強毒化し、猫伝染性腹膜炎FIP)を引き起こしている可能性があり、こうなるともう助けるのがとても難しいとの話だった。

今の時点でFIPになってしまったかどうかはわからない、もし、なってしまっていたら出来ることはなく、あとは本人の生命力しかないとのこと。ここまで説明を受けてようやく、ここ数日間の急激な悪化の理由が腑に落ちた。さぁ、家に帰ろう、ソル。

 

それから数日のうちに、これまでのようなチョビチョビと、量にしてウサギの糞くらいの便が漏れ出るようなものとは全く様相の違う、茶色い液体がシャーシャーと、ところかまわず出るようになった。

 

数日後、いつもは「もう許して!」というくらいに鳴いて、起きろ起きろとうるさいチョルが起こしにこない。気配もない。探すと1人、リビングのテーブルの下でうずくまっていた。半年前にウチに来てから1番好きな場所(食べ物が落ちて来たらすぐにキャッチ出来る場所)。

今は本人が食べられるものなら何でもあげて良い(もちろん限度はあるがそこは大人だから判断つくよね)、と言われていたので、ちゅ〜るを鼻先に近づけた。

が、においを少し嗅いだだけで食べようとしない。

 

鼻先のちゅ〜るも食べられない状態まで弱ってしまったのは初めてだったこと、食卓の下から動かなくなってしまったこと、深夜にいきなり遠吠えのような鳴き方をしたことなどから、私の中では完全にフラグが立ってしまった。

 

正直なところ、お別れなのかもしれないという泣きたい気持ちと並行して、私の頭は今後のTO DOリストの作成に取り掛かっていた。この災害級と言われる、猛暑も酷暑も超えた凶悪という言葉がしっくりくるような暑さの中で旅立たれると、しんみり悲しみに暮れる猶予もなく急いで亡骸をなんとかしないといけなくなる。ネットで検索すると、ペットの火葬場が家からかなり近いところにあることに少しの安堵を覚えた。

 

後はもう、その時が来るまで見守るしかないと、YouTubeでネコがリラックスする曲を選んで部屋にかけたり、そばにいたりしていたが、たまたまその日はルナの検診日で病院に行く日だったので、ソルを置いて病院に行く。

 

出来ることはないと言われていたので、ルナを診てもらいながらソルの様子を先生に伝え、いよいよな気がしますという話をした。

すると先生は、しばらく黙り込んだ後、

「まだ出来ることがある気がします。連れて来れるようなら連れてきてください。」

と言ってくれた。

明日は病院が休みで、このまま看取ることに対して不安もあったため、帰宅するとケージからルナを出し、ソルを入れて再び病院に出発する。

 

そして。

ソルを見た先生は、

「致命的に悪い場所は腸だけ。心肺機能はまだ元気だから死ぬまでけっこうかかるかもしれない。その間しんどい思いをすることになってしまうから、今はまだ腸を治す方向でいきましょう。打つ手はまだあると思います」

というようなことを、オブラートに包んで言った。

FIPではない、ということなんだろうか。

いつものビタミンと葉酸の皮下点滴注射にプラスして、腸免疫調整の錠剤を投与された。

この錠剤、前にも一度先生が試そうとしたがソルが激しく抵抗して断念したという過去があった。ものすごく苦いこの薬、朝晩の服用が必要なのに病院でも投与が難しいのならば、ソルに関しては爪切りすら出来ない私が出来るわけないだろうということで今まで使われてこなかっのだ。

 

今回は、他に有効な処方がなく、飲ませるという選択肢1択だったため、先生とスタッフの方が2人がかりで投与してくれた。

投与が済んでから、何とかお口に入りました、とスタッフの方がケージに入ったソルを待合室に連れてきてくれた。

 

その日から、起き上がればシャーシャーと出ていた水便が、少しずつ回数を減らしていった。例えるならば、化粧水→乳液→クリームという状態にまで水分量が変化して行った。腸免疫錠剤の錠剤が効いたらしい。

本来、朝晩1錠のところを2日に1度通院して服用し、ひどい状態をなんとか脱出することができた。

 

ただ、1番ひどい状況からは脱したものの、病院への日参を3日サボればすぐに元の状態に戻ってしまう。5回程度の投与をした段階で先生に提案された。

「おかあさん、おウチでこのお薬やってみます?」