十九、これで食べるのか。

こうして、

「知らんぷり。食べなくたって知らないよ、あぁそうですか、ふ〜ん…大作戦」が始まった。

彼らは最初のうちは「なぬ?」と言う顔をしたものの

「可愛い我らがこんなに見つめているのにコイツが耐えられるわけがないだろう」

と、余裕シャクシャクな態度だった。

 

でも私は負けなかった。朝ご飯も夕ご飯もスコストを発動されても負ける気がしなかった。

というのも、ワケがあった。

 

結論から言うと、腸内バイオームの新品(500gで2200円)を購入して、結果大損になってしまったからだ。

なんだかんだ言って、やはり腸内バイオームは諦めきれないパフォーマンスを叩き出してくれる逸品であること、パッケージが変わって値上げしたのでひょっとしたら微妙ながらも味が変わっているかもしれないこと、ずっとストックしていたものは、マタタビの香りをつけてしまったのが仇になったかもしれないこと、夏場を超えて酸化して不味くなってるかもしれないこと。一周まわって、そろそろ気が変わって食べるかもという期待が抑えられなかったことなどから購入に踏み切ってしまったのだ。

 

で、優しい笑顔で、

「このゴハンは久しぶりだね、おいしいんだよね」

と、渾身の猫撫で声をかけながら、飽きてしまったr/dをどけて腸内バイオームを開封、少しエサ皿に入れてみた。

すると…。

うん、まったく。まったく食べない。

ああ、またしてももったいないことをしてしまった。こんなに高いゴハンを一体何度ムダにしたら私は学ぶのか!!バカバカ自分のバカ!!

「もういい!食べたくないならいい!」

「そんな目で見たってムダだからね!」

と、さすがにこの痛い出費の後では本気で、もう知るか!と思えた。

ルナは私のこうした心の声を知ってか知らずか、そのうち体を重そうに「よっこらしょ」と持ち上げて、モゾモゾもぐもぐとr/dの方を少し食べた。

一方ソルは鼻をフンフン、クンカクンカと鳴らしては食べ物のにおいを物色し続けている。エサ皿には目もくれない。

相変わらずこちらをチラチラと見て、うまく目が合うと得意のちょーだいちょーだいをした。

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そのうち私やムスコが手にしたマグカップまで気になりだし、前脚で腕をちょいちょい触ってきて、カップを自分に近づけようとする。

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この時、ふと思いついた。

私はマグカップをいったん置き、おもむろにソルの黄色いエサ皿を手にしてどっかとソファーに腰掛けた。それから柿ピーをポリポリつまむ要領で、さも美味しそうにr/dを食べるフリをした。

ソルはじっと、真剣にこっちを見ている。

そうしてエサ皿を持つ位置を、ソルにも届く膝のあたりに何気なく下げていき、そのままテレビに見入るフリをして数分間。

ソルはもう興味津々でニオイを嗅ぎまくっている。ニオイを嗅いではチラチラとコチラを見る。エサ皿と私の顔の間に3往復くらい目線を走らせたのち、おもむろに私がおいしそうに食べた(フリをした)r/dを食べ始めた。

けっこう食べ続けるソルに悟られないように、心の中で、

「フフン、引っかかった。バカだね〜」

と呟いた私は、今にも鼻歌を歌いたくなるくらいスカッとした気分だった。

そんな私はこの時、友だちにイタズラを仕掛けて大成功した小学生のような憎たらしい顔をしていたに違いない。

その時、それまで良い勢いを保って食べていたソルが、突然食べるのをやめてコチラをじっと見た。

じっと見て、食べるのをやめた。

私の心の声が聞こえてしまったのか。

スン、と鼻を鳴らして、そこからはもう食べずにゴロンと寝転んでしまった。私の方は見向きもしない。

振り出しに戻る。