夏の夜だった。
その夏は、連日連夜とても暑かった。
なのに寝室のエアコンの調子が悪く、なかなか涼しくならなかった。
暑さから逃れるために、毎晩、主人とムスコと3人で和室に布団を敷き、川の字になって寝ていた。
深夜だった。
主人とムスコはぐっすりと眠っている。
私も寝ていたが、出産以来すっかり眠りが浅くなってしまい、ほんの少しの物音でも目が覚める体になってしまっていた。
でもその音は、ほんの少しの物音なんかじゃなかった。
何かが天井裏にいる。
天井裏で動いている。
今、冷静に考えたら、もしも私が「まんが日本昔ばなし」の頃の時代のヒトなら、はたまた、私が「こんなところに一軒家」のロケをお願いされるような土地に住んでいたなら、それはなんてことない日常の音だったのかもしれない。
しかし私は築20年の中古ではあるが、見たところそんなに古くない、ごくごく普通の、閑静な、と言って良い郊外の住宅街の一角に住んでいた。
そして、このような物音を夜中に頭上で聞くのは初めての経験だった。
情けないと思われようと、私はその時、初めて体験する非日常的な恐怖を感じたのだ。
「何かいる。」
最初のうちは、微かな音だったため自分を誤魔化すことができた。
が、音は次第に大きくなっていき、とうとう私は耐え切れずに主人を起こした。
「上から音がしない?」
主人はしばらく聞き耳を立てた後、こう言い放ち、すぐにまた寝入った。
「カラスがベランダでも歩いてるんじゃない?」
和室の上は寝室である。
ベランダでもなければ屋根でもない。
しかし、キッパリと、この話はこれで終わりとでも言うように話を終わりにされた。
どうすることもできず、気になりながらも寝るしかなかった。
思えばこの日が長い戦いの初日だったのだ。