侵入者8・いざ、天井裏へ①

 
何の収穫もなく室内に戻った。
もう寄り道は思いつかない。
いよいよ天井裏に続く扉(点検口)を開ける時が来た。

ホシの痕跡が1番少ないだろうと踏んで、心の練習も兼ねて、先ずは2階に上がった。
2階の東南角部屋は、暖かな陽射しに包まれていた。一階和室まわりで起きている大変な騒ぎを、同じ一軒家の部屋同士とは思えないくらい我関せず、といった風情で、大変のんびりホンワリとした空気を漂わせていた。

扉(点検口)は、クローゼットの上方に設えられた、高さ50センチくらいの棚の上にあった。
私はまず、そこに入れていた、人生ゲームやプレステの空箱、子どもの作品、捨てられないオモチャや古着を出し、人が入るスペースを確保した。
それから、準備したに2種類の懐中電灯の点灯確認をし、「懐中電灯、ヨシ!」と言ってみた。
2種類のうちの1つは頭に巻くタイプである。なぜウチにこんなものが?と思ったが、恐らく主人がジョギング用に購入したのだろう。両手が空いて便利そうだと買ったものの、ジョギングする時に付けるのはカッコ悪いと気付き、放置した…そんなところか。

踏み台に上がり、棚に手をかけヨイショと上る。

フー。いよいよだ。緊張が高まる。
フックを外して点検口をひらいた。

そこには初めて見る我が家の天井裏が広がっていた。
整然と梁が並んでいる。
人の気配のない空間は、うっすらと埃が溜まっており、とても静かだった。
断熱材の細いスキマから日の光が透けて、光が溢れている。
屋根の傾斜で三角形のその空間は、思ったより広くて平和だった。
こんな場所があったなんてちっとも知らなかった。

子ネズミ一家の痕跡が感じられなかったことに安堵して階下に降りた。
次は風呂場だ。

風呂場の天井裏にアクセスするには、間に足場になるような場所がないため、納戸から大きな5段ハシゴを引っ張り出してきた。
それを洗い場に置き、慎重に上った。
風呂場の点検口は、浴室の壁と同じ、白いプラスチック製で、下から上に押すだけで外れる簡単なしくみになっていた。
フタを押して、恐る恐る中を覗く。

懐中電灯で照らすと、家の真ん中に位置するこの場所は、たくさんの梁で覆われていた。
そこから北側に位置する和室、廊下、トイレ、玄関の方向は、梁でほとんど見えなかった。
一方、南側、リビングの方は、かろうじてリビングの南側の壁までが見渡せた。
そしてここも、懐中電灯で照らすとホコリがうっすらと浮かび上がるが、さほど荒れた空気は感じられず、かと言って、二階の天井裏のような呑気で平穏な空気でもなかった。
これは、敵の本拠地に近づいているからなのか。

和室の天井裏、ますます行きたくなくなるのだった。