侵入者12・スプレー女参上

ハッカの香りのスプレーを2本抱えて意気揚々と家路に着いた。
このスプレーをシュッと天井裏にやるだけで子ネズミ一家が

「キャー何このニオイ!!」(ママ)
「やめてー!!助けてー!!」(子どもたち)
「急げ!今すぐここから脱出するぞ!!」(パパ)

となってくれるなんて、まるで夢のよう。
想像するだけで小気味良い。
今日は本当に良い買い物ができた。

早速、ハシゴや踏み台、懐中電灯などを準備し、スプレー缶を握りしめる。
いざ、再び天井裏へ。
それぞれの点検口から思いきり、奥の奥まで届くことを祈りながらスプレー缶を押しまくる。
よーし、いいぞ!天井裏をハッカの香りで充満させてやれ!
何かに取り憑かれたかのように、噴射しまくった。
するとスプレー缶は、あっという間にカラコロと音が鳴り出し、空になってしまった。
「これだけ!?」
思わず声が出た。
これだけしか入っていないのに1缶1000円近くしたことに驚きを禁じ得なかったが、でもこれで子ネズミ一家が大慌てで逃げ出したかと思うと満足感でいっぱいだった。

しかしその夜、子ネズミ一家はいつもどおり、大騒ぎのパーティーピーポーだった。

これは一体どうしたことか!?
ハッカのニオイで泣きながら逃げるんじゃなかったのか!?
今度は絶望感でいっぱいになった。

子ネズミ一家は、この日、テレビの真後ろの壁の裏で大ハシャギだった。人間の裏をまんまとかいてやったぞ、あなうれしや、と小躍りしている彼らの様子が目に浮かび、腹立ちのあまり顔が赤くなった。

たとえネコであっても、ネズミに全く興味がないルナのように、子ネズミ一家にとって、ハッカのニオイはルームフレグランスの種類が変わった程度だったのか。

確認のため、3箇所の点検口の中で、最も心理的負担なく開けることが出来る2階の点検口を開けた。

…まったく匂わない。
ハッカの香りが完全に雲散霧消している。

私は一瞬で無くなるハッカの香りがする空気のために、2缶で2000円近く払ってしまったようだ。

これはどうやら使い方を誤っていたのかもしれない。痛い勉強代だ。
正しい使い方は、このように豪快に一気に噴射しまくるのではなく、夜にシュッシュッ、朝にシュッシュッというように、まるで挨拶をしに行くように小まめに訪問してはスプレーを噴射し、これから寝るところなのにイヤなニオイがしてきた、とか、夕飯にしようと思っていたらまたイヤなニオイ…母さん、なんだか最近クサイんじゃないか?あら、あなたのニオイじゃなくて?人のせいにしないでちょうだい!おかーさん、おとーさん、違うよ。これは、ここのニオイだよ!またケンカするならもう、こんなところ出ていこうよ!といったような流れを作り出すなど、持久戦の道具として使うべきものなのかもしれない。

というわけで、スプレー缶の追加購入と、先ほどスプレー缶に魅了されて、すっかり見繕うのを忘れてしまった、長押の裏の空間を埋める材料を購入するため、改めて、ホームセンターに行くことにした。

色々な品を検討した結果、発泡ウレタンスプレーというものを採用することにした。
コレに関しては、どうして単純に木材で塞ぐことを選ばなかったのか、自分のことながら謎である。
きっと簡単に見えたのだろうが、スプレー缶が意外なほどサッサと「カラコロ」と音を立てて空っぽをになることを経験したばかりなのに。

自分と付き合うの、しんどいなと思うことは非常によくある。加齢と共にますます付き合いづらくなるだろうことは想像に難くないが、これはもう諦めるしかない。共に生きるのみである。

そうこうして帰宅すると、ポストの中に一通のハガキが入っていた。

くしくもそれは、シロアリ駆除で以前お世話になった法人からの
「害虫駆除(シロアリ、ネズミなど)の無料点検。来月末まで特別実施のお知らせ」
だった。