侵入者13・プロ降臨。

これまで我が家に害虫駆除の案内ハガキが届いたことなど一度もなかった。

…これは一体どういうことか。

ホームセンターの「ネズミが泣いている看板」の前で、腕を組んでいるところを誰かに目撃されてウワサでも広まってしまったか、

高野さんが同年代のご近所さんと立ち話をした時に、何の気もなく話題にしてしまったのか、

それともコレは…コレはひょっとして、袋小路にハマり、行き詰まっている私を見るに見かねた天の思し召しか、、、!?

この業者には、以前、シロアリ駆除でお世話になったことがあること(調査の結果、その時にいたのは羽アリだけだったが、予防ということで高額の薬剤を撒いてくれた。)と、何はさておき「無料」とデカデカと書いてあったので、早速電話をした。

すると、なんと今日のうちに来てくれるとのことだった。
事態がトントン拍子で進む感じに、私は久しぶりにあの名曲を思い出した。
1人の手。
1人の手は小さくって何も出来ないけど、みんながいっぱい集まれば何か出来る、みたいな歌詞だった。
ホントそのとおり。
来てくれることがわかっただけで何だか気持ちが楽になった。
無料で点検してくれるなんて本当にありがたい話だ。
そう言えば数年前、羽アリだけで白アリはいなかったけど予防のために薬を撒いたからと、50万くらい払った時も、最初の点検は無料だった。
しかしこの時、そのことはまったく思い出さなかった。

やがて
「ピンポ〜ン」
とチャイムがなり、博多華丸にそっくりの業者さんがやってきた。
その方は、さわやかな挨拶の後、私の話をひととおり聞いて、こう言った。
「じゃ、まずは家の周りですね。出入り口を特定しましょう。」

え?そんなに自信たっぷりな感じなんですか?
ハッタリですか?私、何周も見て回ってますけど??
と、内心は、
「そんなに簡単に見つかるんなら、こっちも苦労してないんだよね…」
という気持ちでいっぱいだったが、大人しく華丸さんの後を付いていった。

付いていった、というか、華丸さんは、外回りの旅のスタート地点である玄関から一歩踏み出したところですぐ止まった。

屋内で言ったら、和室のすぐ手前にあたる場所にある外壁の、少し出っ張った箇所の基礎部分と壁の間にグッと手を突っ込み、驚愕の一言を言い放った。
「あ、ここですねー!」

???
一瞬、何が起こったかわからなかった。
頭の中は聞きたいことがだらけでグルグルしたが、私の口からは、
「どうしてここに手を突っ込もうと思ったんですか???」
という質問が真っ先に口からついて出た。
「うーん。なんとなく。こういうところが施工が甘かったりすることってよくあるんですよ。でも他も一応全部見てみましょう。」

そう言って、呆然としている私を促し、家の周りをグルッと一周回った。

結果、華丸さんは、最初の和室の手前の出っ張り部が出入口と見て間違いないと断定した。
子ネズミ一家の玄関は、なんと私たちの玄関のお隣だった。その距離30センチ。なんてこった。

ここはツツジクレマチスが植えられていて、少しだけ茂みチックになっている。それが丁度良かったのか。

この場所にあったことで、私は、子ネズミ一家に完全におちょくられている気がした。
もう容赦はしない。そうだ、ホイホイを買ってやる!

私は自分が1ランクUPした気がした。今まさに私はホイホイを使う勇気を獲得した。

華丸さんは大変親切に、発泡ウレタンを怪しいところに噴射した方が良いのかという私の質問に、「悪くないですね」と答えてくれた。

冷静に考えれば、これは、
「まぁムダだけどね。」
なのだが、私は念には念を入れ(買ってしまった手前)長押の裏側を塞いで、余ったスプレーは、全て外の換気口やエアコンの排水管に吹きかけた。
(結果、驚くほど無様で汚い仕上がりになり、数ヶ月後に来たエアコンの取り付け業者のお兄さんに「気持ち悪い」とまで言われる始末だった。)

華丸さんは車に戻って見積書を作成してくれた。約20万円。これで、最後の消毒作業まですべてやってくれるとのことだった。
「ご検討ください」
と、笑顔で言ってお帰りになった。

華丸さん、本当にありがとう。

感慨深い気持ちで華丸さんを見送り、視線を感じて振り返ると、ルナが冷ややかな目で「メシはまだか?」と訴えていた。