いつもいつも、やれ吐いた、下痢だ、血尿だ、毛がごっそり抜けた、おしっこが出ないと、何かしら心配の種を撒きちらすことを日々の日課にしている爺さんネコ、ソル。
それがここのところ、ボチボチ順調、と言って良い日々だった。
だから、刺激しないように、
「おっ!?何かやらかした方がいいっすかね!?」
などという気持ちをくれぐれも起こさせないように、遠巻きに見守っていた。
しかし、やはり彼は、
「自分は常に家族の中心的話題になるべき猫でなければならない」
と考えてしまうようだ。彼の大変悪いところである。
いつもどおり、腸免疫の錠剤をソルに飲ませた時だった。
口の中に錠剤を放り込み、すかさず喉をさすって嚥下を促し、ゴクンと飲んだタイミングでちゅ〜ぶをニュッと口の中に入れる一連の動作が終わり、やれやれと立ちあがろうとしたその時。
私の手に血が流れ、床にボタボタッと真っ赤な鮮血が落ちた。
私が、
「ヒッ」
と声を上げるのと同時に、
ムスコが、
「お母さん、ソルの口から血が出てるよ!」
と、叫んだ。
正確には口ではなく、口の下、顎あたりか。
今度は一体何なんだ。
深いため息が出た。
その日はちょうど薬が終わって病院に行く日だったので、血を拭って病院に向かった。
出血は既に止まっていた。
先生は顎の、出血したあたりを丹念に見て、それから少し笑った。
先生「これはニキビです。」
私「え!?」
私「え!?ネコですけど?」
先生「そうですね(笑)。ネコちゃんでもよくあるんですよ。薬出しておきますからチョコチョコ塗ってあげてくださいね。」
私「じいさんですけど?も、すごーく、じいさんなんですけど!?」
先生「…」
知らなかった。ネコでもニキビができることを。
そして76才でもニキビができることを。
しかしニキビか。
ニキビならば、まぁ良かった。
というわけで、この出血は可愛い出血で済んだのだった。
ニキビって猫でも出来るんですね。