四十一、猫の安楽死について聞いてみた。

病院に着くと急患の猫がいて、だいぶ待たされることになった。

急患と言ってもソルのように深刻な病気ではない。いや、深刻には深刻か。
太り過ぎでおデブなのに、体重を考えることもなく高所から飛び降りて脚を骨折したとのこと。

覗いてみれば確かにでっぷりとしている。
よく跳ぶ気になったな。若者が無謀なのはどうやら猫も一緒らしい。でもその無鉄砲さは、もはやルナにもソルにもないもので、なんだかキラキラとまぶしく映った。

骨折猫の処置が終わり、診察室に通された。
ソルはしおらしくしていた。まだ鎮痛剤が残っているのかもしれない。

「言われたとおり、けっこうキツくてカテーテルを通すのに若干手こずりました。でもまぁ何とかオシッコは出しました」

そう言って先生は、血液検査とエコー写真を目の前に置いた。

「石がありますね。それに貧血。腎臓は幸い悪くない数値です」

私は気になっていることを聞いた。
「また詰まることはあるのでしょうか」

「普通は2回も抜けば大丈夫なんですが、こればっかりはわかりませんね」

「もしまた詰まったら?」

「もしも3回詰まるようなことがあれば、膀胱切開して石を出すか、尿管を広げるか、手術することになりますかね」

やはり。
私は今なら聞ける気がして、ずっと気になっていたことを聞いた。

「1年前に引き取ったこの子は既に14才です。慢性腸症に繊維反応性疾患も抱えています。ここで大きな手術をするとなると、相応の額もかかるだろうし、何より高齢のこの子の負担も大きいかと思います。安楽死という選択も正直言って頭によぎるのですが、どうでしょうか」

この1年間ずっと診てくださっていた、かかりつけの先生にはここまではっきり聞けなかった。
先生が、まだまだ前向きな気持ちでいてくださることを私は知っている。
だから、ここぞとばかりに、この初対面の医師に聞いた。医師は答えてくれた。答え方からして、よく聞かれていることがわかった。

「まず、法律の問題があります。ペットを殺すことは法に触れません。だから出来るかどうか問われれば、出来ます。次に、倫理観というものがあります。実際のところヨーロッパなんかでは、日本と比べると驚くほど簡単に安楽死に踏み切ります。文化の違いです。考え方は個々で違うので、当然のことながら獣医師によっても違います。断る医師も非常に多いです。ただ、ウチは断りません。飼い主さんがそう言うなら、事情があるんだろうと考えて引き受けます。飼い主さんにも生活がありますから。」

淀みなかった。
私は少しだけ自分が楽になったのを感じた。ここに来れば終わらせてくれる。そう思った。

本日のお会計、27350円。
円安もあり、すごい物価高の今。できることなら家計もソルも守りたい。