五十一、退院して万々歳というわけには全くいかない14才オス猫の話。

動物病院から電話があり、夕方迎えに行くことになった。
ソルを迎えてから一年。思えばこんなに通い詰めた病院はここが初めてだ。

待合室で待つこと30分。ケージに入ったソルが出てきた。
運んできてくれた看護師さんはケージ以外にも何やら色々入った袋を下げている。
この袋は一体なんだろう…。

私の視線が袋に向いているのに気づいた看護師さんは素敵な笑顔でこう言った。

「いっぱいあるのでビックリですよね。これ、今日から使ってもらうお薬です。」

ウソでしょ!?こんなに!?
驚きすぎて声も出なかった。驚いている私に、看護師さんが畳み掛けるように言う。

「この青いのが抗生剤で……コレ、結構苦いんですよね……、あ、こっちの茶色いのも激苦なヤツだ………あと、コレが胃腸剤で……そうだ!腸免疫の錠剤はまだおウチにありますよね?あの苦いのも、大変ですけど今までどおりあげてください。あ、全部、朝晩1錠ずつです。こっちは数が多いので処方箋袋じゃなくて、箱ごとお渡ししちゃいますね!」

おいおい、待て待て待て。聞いてないぞ。
こんなに大変なこと、これっぽっちも聞いてないぞ…。

確かに私は苦難を乗り越えて、今ではもう錠剤マスター、と呼んでもらっても良いくらいの腕を持っている。

十一、ネコに錠剤。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。

十二、まさかの投薬ライフ。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。

でも、でもだ。朝に4錠、夜に4錠、おまけにめちゃくちゃ苦いって!?

おいおいおいおい。

専属の看護師ならお給料ください。

「あ、あと、ソルちゃん、さっきウンチが出たんですけど、やっぱり下痢がひどくて…。エリザベスカラーをしてるので、どうしてもカラーとか汚れて大変になっちゃうかもしれないんですけど…」

うん、それはね。それは知ってるよ。大変だよ。いつも大変だけど、カラーをしてる時はもっと大変なの。知ってる…。

「あと〜、この療法食をあげて欲しいんですけど、ソルちゃん、一回で食べる量がとっても少ないんですよね。だから、チョコチョコあげてください。サンプルお出ししておくんで注文はお早めにお願いします。」

そう。それ。
それが一番恐れていたことだ。
置きエサが出来なくなる問題。

今までは、ルナの全面協力体制のもと、ゴハンを完全にソル重視の置きエサにしていた。

ところがソルの療法食が今回あまりにもdeepで、膀胱結石がない子が食べるのは逆に良くない。
となると、置きエサが出来ない。
となると、2匹ともチマチマ食いが出来ない。

この子たちはどちらもチマチマ食いしかしないのだ。

勝手にチマチマ食い出来なくなると、もう私が、今まで以上にこの子たちの顔色を窺って、

ゴハン、食べにきたの?ええと、ソルはこっち。」

と、個々の皿を出して、都度、提供しなければならない。
ルナなんて、最近は手作りごはんの味を占めて、ササミが出てくるまで得意の最高に可愛いキョトン顔を保持したまま、皿の前に座って待ち続ける。

考えただけで変な汗が出る。

そんなわけで、
「退院おめでとう!命を救ってくださって、先生、このご恩は一生忘れません!」
的な空気をこれっぽっちも醸すことが出来ないまま、悄然と家路に着いたのだった。