保育園で。土曜保育は彼女がいないとまわらないという話。

※これはあくまで私の体験談をベースとした話です。保育方法をはじめとする諸々は保育園によって千差万別です。

保育園では、親御さんがお仕事の場合には、平日だけではなく土曜日も保育を提供している。

土曜保育が必要なご家庭は、医療や飲食に携わる保護者が圧倒的に多い。
だから、お子さまの顔ぶれは毎週ほぼ変わらない。

一方、保育士は土曜日を交代で担当する。
だから土曜出勤は数ヶ月に1回くらいだ。

人数に応じて大体2人〜4人くらいの保育士が出勤するが、組み合わせも時間シフトも毎回異なる。
少人数とは言え、普段見ているクラスのお子さまだけではなく、まったく関わりのないお子さまたちの方が多い。
しかも、通常の月齢ごとの保育ではなく異年齢保育となる。

朝から慌ただしくバタついた雰囲気になるのは否めない。

でも。

土曜日にはスーパーアシスタントがいる。
いや、貢献内容から言って、スーパーアドバイザーか。
ナナちゃんだ。

ナナちゃんは0才で入園した。
ご両親のどちらもが歯科医師という、スーパーサラブレッドなお嬢さまである。

入園当初は、心細そうにホゲホゲと泣く、繊細な、ミルクもあまり飲めない色白の赤ちゃんだった。

それが2才を過ぎて、言葉を獲得した頃から雰囲気がガラッと変わった。

2才にして、ダミ声でおばさんのようにベラベラと話す、おしゃべり好き、世話好きな女子に変貌を遂げたのである。

土曜日に来ることが多い他のお子さまが、様々な事情で来ないことがあっても、ナナちゃんだけは赤ちゃんの頃からずっと皆勤を果たしている。

その結果、5才になった今、土曜保育に関しては誰よりも詳しくなった。
彼女なくしては土曜日の保育は円滑に進まないと言っても過言ではない状況である。


その日私は久しぶりに土曜日のシフトだった。

出勤して、会場セッティング(使うお部屋の電気やエアコン、換気や清掃など)や入退場確認(登下校時間の確認)をし、ポツリポツリとやって来るお子さまの受け入れを始めた。

8時をまわった頃にナナちゃんがやってきた。

「今日は先生なんだ。久しぶりじゃない?」

「そうだね。ナナちゃん。しばらく会ってなかったよね。元気にしてた?」

「うん、ナナはいつだって元気。で、今日は何人なの?」

「え?何人って?…ああ、今日来るのはね、全部で8人だよ。」

「8人ってことは…(指を折りながら)。ふーん。誰か新しい子が来るの?」

「へ?新しい?…ああ、今日は、そう、そうだね。いつもは来ないリカちゃんが来るね。」

「その子は赤ちゃん?」

「あ、うん、そうだね。まだ赤ちゃんだよ。」

「そう。だったらトッターをもう持ってきておいた方がいいんじゃない?」

「は?…ああ、確かに。…はい。」

と、この調子で、大体最後は敬語で指示を聞いてしまう雰囲気になる。

「ナナね、今日はパズルじゃなくて折り紙がしたいの。先生、出してくれる?」

「折り紙ね。わかった。」

そうして折り紙で何やら色々折り始めたナナちゃん。

そのうち、まだハイハイもおぼつかないリカちゃんがやってきた。
初めての土曜保育、初めての保育士に驚いて大泣きだ。
今日は保育士2人体制、1人はこの子の専属にならざるを得なそうだな…などと考えていると、ナナちゃんがエプロンを引っ張った。

「先生、リカちゃん見せて。」

ほかの子も来る。みんな赤ちゃんが大好きなのだ。
普段の保育では月齢によって完全に分かれるので、同じ建物にいるのに全く見ることも出来ない。

「可愛い…」

みんなうっとりしている。

リカちゃんも、大人に囲まれたら決してこうはいかないのだが、ピタリと泣き止んだ。

やがて子どもたちも飽きてきて、それぞれに遊び始めた。

ナナちゃんは、
「先生、ミルク作る時とか、オムツ替える時、大変だったらナナが見ててあげる。ゴハンはあげられないけど。」
などと言ってくれる。

なんて頼もしいんだろう。

その後、保育士がドタドタと動いていると、他のお子さまに対しても、
「ふ〜ん。ユウタロウくんは今、虫が好きなんだ。ダンゴムシは葉っぱの裏にいるよ。見つけたら優しく持って。」
だの、
「それ、冷たいでしょ?霜柱って言うの。踏んづけてごらん。面白い音がするよ。」
などと、爽やかに声をかけながら巡回してくれている。

その合間をぬって、「どうでしたっけ?覚えてます?」などの会話を何度も交わす我々に、お布団や配膳の配置、お昼のご挨拶のフレーズなどを指示してくれる。

そうこうしているウチに、無事にお昼ご飯を食べ終えて午睡の時間になった。

ここまで来れば後はもう、目が覚めてから午後おやつ、お迎えがちらほらと来る時間となる。

皆が寝て日報を書き始めると、今日もつくづくナナちゃんがいてくれて助かったと改めて思う。

でもその一方で、こんなにナナちゃんに頼っていることが主任や園長にバレたらまずいな…と、反省したのだった。

そして明けて月曜日。
出勤すると職員室が騒がしい。
どうしたのかと耳をそば立てると主任の声。

「え〜?それは困った。どうして?」
「おばあちゃんのおウチにお泊まりするらしいです。」
「他には誰が来るの?職員増やす?」

どうやら今週は主任が土曜保育の担当で、ナナちゃんが土曜日に来ないらしい。
ナナちゃんが来ないので職員を増やす相談をしていた。
ナナちゃんにお世話になっているのは私だけではなかった。

ナナちゃんの卒園まで残すところ1年。
こんな状態では心配をかけてしまうかもしれない。
もっとしっかりしなければ、と思ったのだった。