※これはあくまで私の体験談をベースとした話です。保育方法をはじめとする諸々は保育園によって千差万別です。
いずれ、いや、いずれではなく明確に。
サヨウナラの日は、毎日毎日少しずつ近づいている。
みんな、保育園にいつまでも通ってはくれない。
必ず卒園し、保育園のことはどんどん忘れて成長していく。
頭では分かっているものの、もう二度と会えないと思うとそれは切なく、日々の雑務で気を紛らわしつつ早くも数年先のXデー(卒園式)に備えているのである。
しかし「転園」はそうはいかない。
イレギュラーに、ある日突然やってくる。
年末だろうと明日から休みだろうと関係ないのだ。
昨日、珍しくマイちゃんのママに呼び止められた。
マイちゃんは0才の時に入園した2才の女の子だ。
マイちゃんのママは、いつ見てもとっても綺麗で優しそうな雰囲気。
こんな人が自分のママだったらきっと自慢だ。
そのママの一言で、年の瀬の気忙しさも、少し浮かれた気分も全部吹っ飛んだ。
「先生、急な話なんですけど、主人の仕事の都合で、再来月には引っ越すことになったんです。」
心の準備は、卒園を見据えてしかしていない。
「誰かウソだと言って!!」である。
私の隠しきれない動揺を察知して、マイちゃんのママは、謝ることではないのに、
「本当に、残念なんですけど…」
と、申し訳なさそうに俯いた。
「いや、そこを何とかなりませんか。」
無茶なセリフが喉の奥まで出かかった。
私が営業マンであれば必死に食い止めようとしたかもしれない。
こんな風になってしまうのは、もう仕方のないことだと思っている。
だって、歩く前からのお付き合いだもの。
何回オムツ替えたと思ってんの?
仕事だからとは割り切れない、そういうものだと思う。
本当に。
もう夕飯は全然作る気にならなかった。
(いつもならないけど)
作る気にはならないけれど喉は通る。
その程度、ではある。
それでも。
どの子でも泣くほど悲しい。
しかし、マイちゃんとは。
よりにもよって。マイちゃんか…。
悲しさだけでは片付けられない不安な気持ちが渦を巻く。
「それはまずい。」と。
どうしてマイちゃんがいなくなると不安になるのか。
それはお部屋の雰囲気が確実に変わってしまうからだ。
10人前後しかいないので、1人1人の持つ空気感は部屋全体に影響する。
マイちゃんは一言で言ったら「流されない」。
とにかくマイペース。
黙々と、自分のやりたいことに集中して向かうことができる。
しかもじっくり。ゆっくり。
何をするにも時間をかけるので、何をやっても終わるのは一番最後だ。
気持ちが入らなければ一切やらない。
お支度も、お昼ご飯を食べ終わるのも全部最後。
それでもひとたび始めたら、それは丁寧に、何でも最後までやる。
最後までやるのってすごいことなのである。
こちらはこちらで待つ覚悟が必要にはなるけれど、大切に見守りたい資質のお子さまだ。
少しくらい雑でも早い方が良いというのは、もっと大きくなってからのこと。
この時期に大事なのはスピードではない。
ひとつひとつの工程をきちんとこなすこと。
スピードは、基本ができたら自然についてくる。
最初からチャッチャとこなせても、きちんと意識的に両手を動かしていないと、集中力が身に付かなかったり、落ち着きがなかったりするのを日々感じている。
マイちゃんのような子がいることで、飽きやすく、途中で放り出してしまうタイプの子も自然と落ち着いたり、ペースを落とすことが出来たりする。
放り出しがちな子というのは、逆にモノよりヒトへの興味が勝っていたりもするので、お友だちの真似が上手で、影響を受けることも多かったりする。
そんなわけで、周りに流されずに自分のペースで取り組めるマイちゃんがいることは、1才という年齢のクラスにおいては大変ありがたいことなのだった。
はぁ、マイちゃんか…。
これが他の子だったら…。
あれ?誰ならいいの??
例えばショウイチくん?
保育園で。ショウイチくんはとても大事なことを学んだ。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。
いやいや、ありえない。考えたくもない。
みっちゃん?
保育園で。みんながみんな、簡単に眠れるわけではないという話。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。
ムリムリムリ。みっちゃんは大事。
ソウタくん?
保育園で。保育士だってイヤイヤ期には苦労する。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。
絶対ダメ。耐えられない。
…考え始めたら、結局のところ全員、いなくなるとマズイし、困るのだということがよくわかった。
個性の強いお子さまたちが、いかんなくそれぞれの持ち味を発揮して、毎日、それはそれは彩り豊かなのだ。
ああ、やっぱり引越しは困る。
どう考えても意気消沈せずにはいられないのだった。
別れの傷を癒す荒療治は、4月の新しい出会いなんだけど春はまだ遠い。
今はただ、残りの日々を噛み締めよう。
そしてマイちゃん一家が、引越しは大変だけれど、引っ越し先でもたくさん笑っていてくれますように、と祈るばかりである。