年明け。
今年は、お仕事のスタートが遅いご家庭が多かった。
新年最初の週末、1才児クラスで登園したのは、2才半のミサトちゃんを含む3人だけだった。
いつもなら、お子さまの人数が少なければ保育に当たる職員を減らす。
そして手の空いた職員は、日頃手を付けづらい場所の掃除や、たまった書類作業を片付ける。
でも年末に大掃除したばかり。
間近に行事もなく、雨も降っている。
しかも長期休暇が明けてから最初の週末だ。
たまにはゆっくりモードでやらせてもらおうということになった。
突如降って湧いた贅沢な時間、私には前からずっとやりたかったことがある。
エンドレス読み聞かせだ。
赤ちゃんの頃からみんな、絵本が大好きだ。
お部屋が騒がしくなってきた時の特効薬でもある。
一番小さな0才さんのお部屋では、先生が適当に選んだ本を掲げながら(掲げていないと皆の手が伸びてきて進まない)みんなで見る。
この時点で既にしっかり好みがある。
進級して1才さんのお部屋になると、自分で気に入った本を選ぶ。
そうして、まだ読むのは難しいから「よんで」と持ってくる。
次の進級を経て年を越すあたりになると、本を物色したらもう自分の世界。
夢中で頁をめくる。
自分なりに熱心に見始める。
本当は、それぞれの「よんで」にもっとしっかりと向き合いたい。
でも到底ムリ。
いつも必ず読む前に、
「1回ね」
と念押しする。
一度読んでもらったくらいでは全然満足できないコトをわかっていながら。
お子さまの方も同じ。
読み終わった後は必ず、
「もう一回」
と言ってみる。
絶対に聞き入れてもらえないコトをわかっていながら。
他にも読みたい本を持ってウズウズしているお子さまがたくさんいる。
「一回ずつ。順番ね。」
いつも、まだまだ全然足りないよね、と内心で思いながら伝える。
でも今日なら、ミサトちゃんがお腹いっぱいになるまで読んであげられる。
ミサトちゃんはいつもの癖で、
「誰よりも先に、急いで先生のところに持っていかなくちゃ!」
と、大して選ぶこともせず、慌てた様子で本棚から1冊持って来た。
ミサトちゃんがほとんど偶然に選んだのは、
「あめふりさんぽ」
本を受け取る。
少しの緊張と、これから出会う新しい世界を思って、ミサトちゃんの頬はほんのりと紅潮している。
いそいそと距離を詰め、膝にちょこんと乗っかった。
おともだちと一緒の時には膝に座ったりしないのに。
どうやら今日は「貸し切り」だと気づいた様子。
ココロは早くも絵本の中だ。
ゆっくりページをめくる。
ミサトちゃんは微動だにしないで絵本をまっすぐ見ている。
やがて最後のページとなり、
「おしまい」
と言うと、私を見上げ、とっても優しく可愛い声で言った。
「もう一回?」
いつもは違う。
さながらトラかクマか、はたまたライオンか…くらいには高圧的かつ好戦的な態度で、絵本をグイグイと、有無を言わさず押し付けてくる。
ライバルがいたら手段を問わず蹴散らそうとするタイプだ。
でも。そうなんだ。
満たされるとココロに余裕が生まれて、ヒトは優しくなれるのだ。
リクエストに頷くと、ミサトちゃんは何も言わず、再び本に目を落とし、絵本の世界に入って行った。
真剣に、真剣に聞いている。
読み終わると、
「もう1回?」
また最初からゆっくり読む。
真剣に聞く。
何度も何度も。
軽く10回は読んだ。
十何回目かの終わりに、
「おしまい」
と言うと、ミサトちゃんはふうっと息を吐いた。
そうしてゆっくり立ち上がり、そおっと、忍び足で本を返しに行った。
まるで、今読んだ絵本の世界が、自分から少しもこぼれ落ちることがないようにしているかのようだった。
「お昼食べようか」
「うん」
本当におしまいにしてお昼ごはんを食べに行った。
いつもは、お着替えするとかしないとか、ごはんをもっと食べるとか食べないとか、イヤダイヤダのオンパレードでちっともお昼寝できないミサトちゃん。
その日はストンと寝た。
どんな夢を見たんだろうか。
お迎えが来て帰る時。
「せんせい、ごほんいっぱいよんで、たのしかったね〜」
と伝えてくれた。
ほんと。
楽しかった!
※これはあくまで私の体験談をベースとした話です。保育方法をはじめとする諸々は保育園によって千差万別です。