行きつけの美容院の話。

明日は3ヶ月ぶりの美容院だ。


今通っている美容院には、もう7年もお世話になっている。
こんなに長く同じ美容院に通うのは初めてのことだ。

こんなに長くお世話になるとは。
初めて行った日にはまったく想像していなかった。


7年前の梅雨が明けた頃、温度も湿度も一気に上がったその日。

なぜか突然、肩まで伸びた髪が、無性にうっとうしくなった。

居ても立ってもいられなくなり、三面鏡も持っていないのに、というか鏡すら用意しないで、後ろ髪をザクザクと適当に切った。

真っ直ぐに切れているという間違った感触に満足して、前髪もサイドもどんどん切った。


そうして、幼い日、床屋さんごっこでお客さん役にした人形そっくりの、形容しがたい無惨な髪型になってしまった。


プロによる調整が必要なことは明らかだったが、月曜日で近隣の美容院はすべてお休み。

徐々に範囲を広げていき、ようやく電話がつながったのが今の店だ。


事情を話すと、遅い時間でも良ければ対応してくれるというので、多少遠いが行くことにした。

私より10才くらい年下の、男性の美容師さんは、私の髪を見て、

「…。」

「…。」

「…うん。ボクはイイと思いますよ。」

と言った。
答えるのに時間はかかったが、やはり接客のプロである。

そうして無事、床屋さんごっこをされた人形からフツーのおばさんに戻してもらったのだった。


店の場所が遠かったので、本当ならそれっきりだった。
が、しばらくして偶然、我が家から徒歩3分のところに移転してきた。

それ以来ずっとお世話になっている。


職業柄、とても聞き上手な為、髪を切りに行く以上に喋りに行っている。

時間は決まっているから早口で全力で喋る。
目の前の鏡なんてまるで見ない。


唯一、話を止められるのは前髪の確認の時だ。


「前髪の長さどうします?」


私の答えはいつも同じだ。
でも必ず聞かれる。
別の答えを期待しているのかもしれない。


「"短過ぎておかしい"の、ギリギリ一歩手前の長さでお願いします。」


そうして毎回、ミチオくんより少しだけ長いくらいの長さに整えられる。

保育園で。ミチオくんを見て思い出した過去の出来事。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。


会った人の9割に「攻めたね〜」と言われるが、前髪を自分で切るのがイヤだからというだけのことだ。


そうして、前髪を切り始めたらもう最終ターンだ。

急がなければ。

まだソルが猫コロナになった話も、お隣の高野さんに髪型を褒められた話もしていない。


髪を切るのが仕事なのに、傾聴ボランティアまでしてくれるのだから本当に感謝しかない。



主人だとこうはいかない。


彼はつい、「で、結論は?」とか、「で、結局何が言いたいの?」とか言ってしまう。


私は彼がそう言ったら、もう一回同じことを最初からゆっくり繰り返してやった。
よく考えろ、結論は何か、結局のところ何が言いたいのか、もう一回じっくり聞いて深く考えろと。

それを繰り返すうちに、余計な一言は言わなくなったが、話そのものをまったく聞かなくなってしまった。


だから我が家の事情について、部分的には主人よりも詳しい。


ただ、さすがに身内でもないのに情報を開示し過ぎている気がしなくもない。

もしも敵味方に分かれることがあったらと、時々心配になることがある。

そのくらいコチラの情報は握られている。

それなのに私は、彼の娘が、去年の正月にお雑煮の餅を8個も食べて涼しい顔をしていたということくらいしか思い出せない。


明日行ったら、たまには私が話を聴かせてもらおうと思っている。