おむすびの世界が広がった話。

一方的に話を聴いてもらうばかりでは、万が一、敵と味方に分かれる状況に至った場合、情報戦で負けてしまう。


情報量の均衡を計ろう。


そう考えてこの週末は、いつも"喋る"ために行く美容院へ、"話を聴く"ために向かった。



行きつけの美容院の話。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。


いつもは着席した瞬間から、時間を惜しんで全力で喋る。

が、今回は違う。


引き出すのだ、相手の話を。


まずはムスメだ。人質とかに使えるやつ。


この子に関しては、去年の正月に"雑煮を8個食べたのに涼しい顔をしていた"というコトしかデータがない。


もう少し何か欲しい。それで質問した。


「お嬢さんは習い事とかされてるんですか?」


「ああ。ウチは何も。ムスコさんは最近、サッカーはどうですか?」


「ええ。実は最近、サッカーの後に食べるおむすびの具のことで悩んでいまして…」


「えぇ!?おむすびの具ですか。それは一体どうしてですか?」


美容師さんは40代、桝アナ似の長身男性だ。


おむすびの具の悩みなんて知りたいわけがない。


なのにとても鮮やかに、
「それはもう興味津々だ、是非とも聞かせてください」
という顔をした。


「そんなに聞きたいならば、まぁ話しましょうか…」
と、良い気分になってしまった。

その時点で、行くまでに考えていたことをすべて忘れ、この聞いてくれそうな人間を逃してはならないと、早速細かく話し始めた。

 
最近ムスコが所属しているサッカーチームの食えハラ(食え食えハラスメント)がひどくて困っている。
中でも、タンパク質を食え食えと盛んに言われる。
しかも練習後30分以内に食え食えと言う。

練習後はお腹が空いているため、補食におむすびを持たせている。

しかし、おむすびで十分なタンパク質をとるのは、ご家庭で握るおむすびの具の世界では案外難しい。

ツナマヨは傷みが心配なので、そうすると鮭しか思いつかなかった。

明太子やたらこは、尿酸値が高い主人の目の毒なので我が家では持ち込み禁止である。

昆布や胡麻や味噌などにも入ってはいるがそう多くはない。


ネットで検索しても画期的なアイデアはなく、完全に行き詰まり、イヤになっていたのである。


そんな話をつらつらとすると、

「なるほどフンフン。そうだったんですね…それは困りましたね…」

心の底から一大事だと思っている表情をされたため、ようやく理解者が現れたことにホッとしたのだった。


しかし、

「でもそれ、実はとっても簡単に解決しますよ。」

と、爽やかに答えてくれたのだった。


検索したって画期的なタンパク質の具材なんてひとつも出てこなかったのに、簡単?


「簡単です。運動後の補食なら鶏の胸肉が一番。胸肉を茹でて塩昆布をまぶして、味変として真ん中に入れたら完璧です。」


目から鱗が落ちた。

なぜソレに気づかなかったのだろう。


それを聞いた瞬間、ネット検索の限界を知るのと同時に、自分の小さい常識の外に出るコトができたのだった。


以来、おむすびの具には胸肉だけではなく、唐揚げやウィンナー、肉団子などをこれでもかと詰めこんでいる。
そこには自由な世界があった。
おむすびの具の世界には、限界なんてなかったのだった。
何よりムスコも喜んでいる。


小さな悩みがひとつ解決した。


小さな悩みは、大きな悩みをゴマカすために作っている向きもあるため、また新しい悩みは作らなければならないが、とにかくスッキリした。


帰りに、
「今回はコレどうぞ。」
と、お勧め本を数冊貸してくれた。

毎回、合いそうなお勧め本を数冊貸してくれる。

傾聴ボランティア、悩み相談、その上カットまでしてくれる。


やはり、間違っても敵味方にならないことの方に力を注いでいこう、と思ったのだった。