エミちゃんのこと。

ここ数年間ですっかり音信不通になってしまったエミちゃん。

今頃どうしているだろうか。


エミちゃんと知り合ったのは10年と少し前。
私と同い年だから今はもう50才を超えている。

でもエミちゃんは、今もきっと変わらず"エミちゃん"でいると思う。


もともとは友人の同級生だ。

引っ越し先で知り合いがいない私のために、空き家になっている実家を貸してくれた友人が紹介してくれた。


エミちゃんには息子と一つ違いの女の子がいる。
名前はエミコ。

当時は、息子もエミコもまだとても小さく、カタコトで話す姿がとても可愛らしかった。


エミちゃんは小さな頃からずっと、最後に"子"が付く名前に憧れていた。

だから自分の子には"子"を付けてあげた、と満足そうに言っていた。


保育園で働き始めて、名前の終わりに"子"を付けているお子さまに出会ったことがない。


でもエミちゃんは、そんなことは全く気にしないヒトだった。
世間の流行りなど、エミちゃんには多分どうでもいいことなのだった。


エミちゃんはもちろんのこと、当時まだ保育園に通う年だった娘のエミコも、どこででも生きていけそうなしぶとさを兼ね備えていた。


旦那さんは働いていなかった。

「留守番にはなる。」
と、エミちゃんは言っていた。


年賀状は出さない。
その代わり大晦日になると、来年もよろしくと電話をくれた。


ある日、夜9時過ぎに突然チャイムが鳴って、玄関を開けたらエミちゃんがいた。

おいしいバナナを一房130円で買えたから半分持ってきた、と言ってモンキーバナナをくれた。
半分に分けられた房には、たくさんの小さいバナナが付いていた。

自転車で往復1時間かけて持ってきてくれたバナナは、おいしくてムスコを虜にした。


しばらく連絡が途絶えたある日、久しぶりに会おうと電話がきた。

「夜の仕事を始めたんだ。40代が横に座っても何だか申し訳ないけどさ」

エミちゃんの睫毛はマスカラが綺麗に施され、ファンデーションにはラメが入っているのか、キラキラしていた。


その後も色々な仕事を転々とし、最後は事務の仕事に落ち着いた。


「有休をもらったから、久しぶりにピクニックに行こう。」

また、しばらく連絡が来ないなと思った矢先に電話があった。


エミちゃんとは以前、市内の地図を机に広げて、そこに載っている広そうな公園に気の向くままに出かけるということを繰り返していた。

まだ行ってない、広い公園があるという。


当日は、三輪車を車に詰め込んで朝早く出発した。


ひとしきり遊んで、ピクニックシートを敷いて持ってきたパンを食べていると、カラスが飛んできて、おやつに持参した袋菓子を持って行ってしまった。

エミちゃんは怒って、かなり遠くまで追いかけた。けど、どうしようもなかった。

カラスめ、覚えてろよ…
憎々しげに呟きながら、再びパンを頬張った。


するとまたカラスが飛んできて、今度はお菓子を食べた後の空き袋を咥えて飛んでいった。

エミちゃんはまた追いかけて走り、走って走って、ようやく止まった。

カラスに向かって、
「ばーかばーか!それはもう空だよーだ!ザマーミロ!!」
と、気持ちよさそうに大声で叫んだ。


その様子はエミコと息子に大きなインパクトを与え、そのあと2人は帰りの車中でずっと、

「カラス、バーカ、バーカ、ザマーミロって言ったのよ〜。ね〜」

と2人で言い合っては笑っていた。


引っ越しが決まり、結局そのお出かけが最後になってしまった。


引っ越し後、一度だけ遊びに来てくれた。

当時、私は猫の爪がどうしても切れなかった。


遊びに来たエミちゃんにそう話すと、
「爪切り貸して」
と言って、猫を抱き上げた。


「いい?部屋の様子を見に来ちゃダメだからね。」

と、鶴の恩返しのようなことを言って部屋に閉じこもった。

やがて扉が開き、床には猫の爪がたくさん落ちていた。

「こんなお嬢の爪を切るのなんて、簡単過ぎて出来ない意味がわからない。」

と言った。

猫は呆然としていた。


遠方になり、連絡がとだえて5年以上経ってしまった。


そろそろまた私の日常をかき混ぜに来てくれそうな気がしている。