名前を変えたら文句が増えたという話。

「日中には暖かくなるでしょう。」

昨夜、NHKのお天気キャスターが言ったとおりだった。

「暖かい」という言葉に反応し過ぎてしまったけれど、朝はいつもどおりの寒さだった。


寒いけれど、朝一番で骨折したムスコを整形外科に連れて行くため、バタバタと身支度を整えていたところに老猫が粗相してしまい、大量の洗濯物が出てしまった。


やむなく洗濯機を回し、後のことは主人に任せて家を出たのだった。


そうして診察を済ませ、1時間ほどで帰宅。


すでに洗濯機は止まっており、あとは干すだけの状態だった。


が、このあと平和な空気が一変した。


そう言うと大袈裟だけれど、要は主人と口喧嘩になってしまったのだった。


理由を言ったら、私の身内は全員「あんたが悪い」と言う気がする。


でも反省はしていない


つまらないことだ。


上着を脱いでいると主人が、

「この洗濯物、干したいんだけど、今、隣の奥さんも干してるんだよ。これ、干すのだけやってくれない?」

と言ってきたのだ。


意味がさっぱりわからなかった。

返事をしないでいると、重ねて、

「ほら、オレがやってるの、見えちゃうかもしれないからさ。」

と言う。

「は?見えたら、朝なんだから挨拶すれば良いじゃない?」

と言うと、

「いや。だから、そういうことじゃなくて…」

ため息をつかれた。

訳がわからない。

主人が続けた。

「あのさ、お隣のご主人が洗濯物干してるとこ、一度でも見たことある?こんなこと絶対にやらないよ。」

と言うので、

「そうそう、絶対やらなそうだよね!あーウチはフツーにやれるヒトで良かったよ!お隣の奥さんも絶対に羨ましがってるね。」

と言ったところ、あろうことか主人は怒り出したのだ。

「そういうコトじゃなくて。オレは恥ずかしいんだよ!もういい!!」

と怒って行ってしまった。


百歩譲って、私や(いないけど)娘の洗濯物っていうのならまぁわかる。

でも干すのはソファーカバーや靴下やマットだ。

しかも隣の奥さんは出勤前のはずだから、間違ってもそんなどうでもいいことを考えている暇はない。


それでも本当にイヤだったようだ。


そう言えば私の父が、

「スーパーに行ってもトイレットペーパーだけは持ちたくない」

と言い放った時、深く頷いていたことがあった。


また、買い物を頼んだ際にも、

「自ら進んで来たわけではない。」

と、周囲に思ってもらえるように、小細工に買い物メモを用意してみたり、用もないのに電話をかけてきて、

「頼まれてた野菜ってさ…」

と、大きな声で話したりする。


洗濯物も洗い物も私よりよほど丁寧なのに、なかなか面倒くさくてお気の毒な人生なのだ。


私も、めんどくさいなぁと内心で思いつつも、サッサと干してしまえば良かったのだが、あまりにもバカバカしいと思ってしまい、つい言い返してしまった。


これが80も近い父の言葉ならフツーに聞き流していたが、同世代の主人だけに、つい「くだらない…」と言ってしまったのだった。


その結果、主人は怒って部屋に引きこもってしまった。


残りの洗濯物を干していると、ムスコが、

「おかーさん、見てないなら"よし子"消すよ。」

と言ってきた。


家電に名前を付けているご家庭は多いと思うが、我が家もそうである。


"よし子"はテレビだし、洗濯機は"たま子"、テレビのリモコンは"明美(あけみ)"で、ルンバが"セイコ"…


名前はどうでも良いのだが、たまたまこのタイミングで言われたために気づいてしまった。


家電の全てに女性の名前を付けていたことを。


名付け親は、主人の時もあれば私の時もあるし、たま子の名前を付けたのは、確かムスコだ。


ここからして全員が、家事は女性がするものという潜在的固定観念が滲み出ているのではないか。

そう気づいて、慣れ親しんだ名前を変えることにした。


主人がそのような価値観で生きて行くのはまだしも、ムスコが成人する頃にはもはや許されなくなっている可能性がある。


こうして、たま子はたま男へ、よし子はよし男へ、明美は明男、セイ子はセイさん、として再スタートを切った。


すると。
改名をして30分もしないうちに、

「おかーさん、明男(テレビのリモコン)がもうすぐ電池切れるって。」

見ると、よし男(テレビ)にそのような表示が出ていた。

明美の時には一度もなかったのに。

さらに言えば明美は、他人(よし子)の力を借りて気づいてもらおうとしたことなど一度もなかった。

不審に思っていると、今度は、セイコの時なら部屋中を縦横無尽に掃除してくれていたはずのセイさん(ルンバ)が、早くも充電切れだと止まってしまった。


名前をオトコに変えただけでこんなか。

男性の家事問題は根が深そうだと、ため息が漏れたのだった。