一穂ミチ「光のとこにいてね」を一気読みした。

直木賞候補作で本屋大賞にノミネートされている一穂ミチの「光のとこにいてね」を一気読みした。


普段は、分厚い本を下手に読み始めて止められなくなってしまったら家族と猫たちにとても迷惑だし、寄る年波で体力的に気絶しそうになる。


それを回避するため、一度入ったら永久に出たくなくなってしまう"本屋さん"は、恐ろしく危険な場所として、もう長い間、迂回するようにしている。


けれど朝日と日経の書評に出ている本は、ついついチェックして、引っかかったら機会を伺って読む。

大抵の本は節度のある時間配分で読めている。



鈍器本とまではいかないけれど、ぼちぼち厚めの本を一気に読んだのは、数ヶ月前に読んだ浅倉秋成の「六人の嘘つきな大学生」以来だった。


こちらは色々な意味で、読後に思わず作者に拍手したくなるくらいの労作だった。


書くのに相当骨が折れただろうな…と。
取材とか、下調べとかで大変そうなのではなく、頭の中で組み立てる作業が。


展開がスピーディでどうしても止められず、一気に読んで、すぐ主人にまわした。
遅読派の主人も読み耽り、珍しくあっという間に読み終えていた。

これはもう、男女問わず一気に読んでしまう勢いのある作品だった。


一方の、この「光のとこにいてね」は、読者を選ぶ作品かもしれない。


読み終えて頭に浮かんだのは、高校3年生の頃に読んだC・ブロンテの「ジェーン・エア」と、大学一年生の時に読んだアンドレ・ジッドの「狭き門」の2冊。


ストーリーは3冊とも似ても似つかないのに、なんとなく彷彿とさせるのは、共通して、たった1人の相手だけに完全に囚われてしまう、現実には有り得ない(私が知らないだけ?)不変の恋愛感情の存在を肯定する内容だからかもしれない。


そういう本は他にも数多あるけれど、この3冊は、年月を経ても微塵も変わらない、色褪せることが一切ない純粋な恋愛感情が存在するのだと、有無を言わさぬ説得力をもって書き切っている徹底ぶりが他を圧しているというか。


とは言うものの、もうストーリーさえも朧げなので、単に私の中に残る印象として同じモノが存在するように感じるだけなのかもしれない。


あー、私、こういうのホント好きなんだよね〜…と思いながら一気に読んだ。


恋愛ものは、そもそも圧倒的に女性読者が多いけれど、この本がすごく好きだという男性、特に年長の男性は、実際かなり少数ではないだろうか。

映画化までされた「チェリまほ」が多くの女性の心だけを打ったのと少し重なってしまったのは、作者がBL小説家というのもあるのかも。
同性愛は、世界観として純粋性をより際立たせやすい、と以前聞いたことのある話が腑に落ちた部分がある。


全体として情景描写がとても多いのに、全然うっとうしさがないどころか、読後にまさしく表題のとおりのキラキラとした光の残像が残る。


独特の筆致で、本全体のイメージが眩しいくらいの光彩に溢れていた。


ジャンルは違うけれど、垣谷美雨くらいスルスルと読みやすい。
まあでも本当に好き嫌いが分かれそう。


スモールワールズの方をまだ読んでいないのでとても楽しみ。
短編集らしいから大丈夫だろうけれど、また一気読みしたくなるようだと困るな…でもそうであって欲しい…と悩ましく期待してしまうのだった。