十、先生からの提案。

 

「おかあさん、おウチでやってみます?」

 

…そう。

先生が錠剤の投与を始めてからずっと気にはなっていた。

この錠剤の価格は1回半錠50円。

それが病院で処方してもらうことにより500円の処方料がかかる。また600円の再診料もかかる。合計すると1150円。それに10%の消費税が乗ってくるので、50円がなんやかやで1300円近くにドカンと跳ね上がるのだ。つくづく人件費、なのである。

2日おきだとなかなか症状が安定してこないので、朝晩が無理ならせめて毎日来た方が良い、とスタッフの方にアドバイスされたように、この錠剤の本来の薬効をきちんと発揮させるには日に2回の投薬が重要だ。

でも仮に朝晩2回通ったら他の薬も3種類飲んでいるのにこれだけで2600円。1日2600円。これだけで。しつこい。ちなみに私は睡眠に難を抱えているため、出来ることなら噂のヤクルトのY1000を週3回くらい飲みたいと思っているが高価格なので夢のまた夢だと諦めている。その額1日150円。税込み170円。

 

それでも。

自力で薬をあげられさえすれば一回につき1000円以上が削減できるとわかっていても、これはもう目をギュッとつむった。

だって絶対ムリ。

先生でさえ2人がかりで毎回やっと入れてくれているのだ。無事に投薬を終え、待合室にソルを連れて来てくれるスタッフさんだって、息を荒くしながら、

「今日も何とか入りました!」

と、報告してくれる。その表情からは、一仕事終えたような安堵感が伝わってくる。この仕事はカンタンではないことがよくわかる。

 

ネコの口をこじ開けて、そこに指を突っ込む勢いでクスリを入れるなんてできっこない。

あいつは幼少の頃、共に飼われていた、言わば同じ釜の飯、ならぬ空気を食っていたピーちゃん(インコ)に襲いかかり動物病院行きにした男だ。(ピーちゃんは重傷を負ったが幸い回復して天寿を全うした。)

そんな凶暴なエピソードを持つ脛傷オトコの尖った犬歯が指に食い込んだら…想像するだにムリムリムリ…。

 

そう思って今まで粛々とお会計を済ませていた。

が、うすうす自分でも、治らない、日参が大変、経費がかかり過ぎ、の3点セットからこれ以上目を背けるわけにはいかないと悶々としていたのも事実だった。誰かが立ち上がらねばならない。そしてそれが出来るのは私だけだ。

 

やるか、やってみるか、やるしかないのか…。

 

「失敗したらまたお願いしても良いですか?」と尋ねると「もちろん」と有難いお返事。私が失敗したらきっとますます警戒して先生も大変になるだろうに。

 

これはもう、やってやろう。頑張ろう。アイツの口の中に見事このデカい錠剤を放り込んで勝者になってヒーローインタビューを受けよう。そう決意したのだった。