十三、嗜好に試行錯誤。

相変わらず、腸内バイオームをちっとも食べやしない。

そう思っていたら、今度は大人しくモグモグと食べていたルナまでがピタリと食べるのをやめてしまった。本当にピタリと。

腸内バイオームのおかげで、懸案事項だった便のきれが良くなり、排便後にマットにお尻を擦り付けて汚れを落とすという迷惑行為をやめていたのがすっかり復活してしまった。

2キロの袋はまだ半分も消化していない。

食べないからといって、みすみす効果の高いバイオームを諦めるのはもったいない。

が、既にありとあらゆる方法を試し、惨憺たる結果に終わっている。またしても、どうしたものか。

ふと、以前トンカチで食いつきの良いフードを粉砕して腸内バイオームに振りかけたことを思い出した。

もしかしてトンカチではなくて、ミルで粒子をもっと細かくしたらどうだろうか。

いや、むしろいっそのこと、フリカケの方をを腸内バイオームにしたらどうなるんだろうか…。

 

というわけで、今度は腸内バイオームをミルで粉にして、以前病院で試供品を頂いたヒルズの消化i/dに振りかけた。

 

…食べる。

なぜか食べる。

フリカケは所詮、たいした量ではないから少量くっついて口に入る分は消化i/dの味で気にならないのかも。胃に入る9割以上は消化i/dだけれど。

こんな使い方では一体いつ終わるのかわからないが、捨てるくらいならば時々振りかけてみようと思うのだった。(そして、このあと3回ほど"消化i/dふりかけバイオーム"を食べた後、2匹とも再びピクリと食べなくなったのだった…。)

 

十二、まさかの投薬ライフ。

 

いよいよ決戦の朝が来た。

もう一度YouTubeの神動画をおさらいする。

カッカッカッとつぶやきながら近づく。

怖い。手がちょっと震える。深呼吸する…。

本当ならば、病院で2人がかりで何とか処方しているのだから、リモートやら夏休みやらで家にいる他のスタッフ(主人とムスコ)に協力を要請することもできた。

でも私にはわかっていた。察しの良いソルにとって、2人がかりで身体を拘束されたら恐怖は増幅し、結果ますますパニック状態になり大暴れ、ビビったスタッフたちの行動はますますソルを怖がらせ惨憺たる結果になるだろうということを。

私が1人でやるしかないのだ。

猫撫で声で近づき、後退り出来ないように左膝をお尻に当てる。頬骨を持ち上げる。

ダメだ、外した。もう一度。舌の上に落ちてしまった。まずい。味がしてしまう。吐き出した。逃げた。やり直し。もう一度。落ち着いて…。

何度も逃げられ、格闘した挙げ句、どうにか一瞬開いた口のど真ん中、喉の奥に偶然落とすことに成功する。すぐさま喉をさする。すると喉が、ゴックン、と動いた。え??ひょっとして入った?錠剤が落ちていないか辺りを探す。うん、落ちてない。落ちてない!やった!成功だー!!

 

こうして初めての錠剤投与はとても時間がかかった上に、イヤなことをされた印象こそ持たれてしまったが、泡を吹くこともなく口に入れることが出来た。明日からコレを朝晩やるのかと思うとかなり気が重くなったけれど、やらない選択肢はないのだから仕方がない。

そして明くる日。

遊んでいるのか何をしているのか、自分は一体、朝から何をやってるんだ…何のために生きてるんだろうか、と呟いてしまうくらいは家の中をグルグルと追いかけっこする羽目にはなったが、何とか投与したところで病院に行った。

先生はヒーローインタビューこそしてくれなかったものの、1人で投与したことを伝えるととても驚いて、とても喜んでくれた。私はそれで十分満足した。そして2週間分の錠剤をドサッとくれた。これには気が重くなった。

 

しかし日々は過ぎていき、かれこれ錠剤をあげ始めてから数ヶ月が経った。既に軽く100回以上あげていることに改めてビックリする。1番ビックリしているのは、今現在、錠剤をあげることに何のストレスも感じなくなっていることだ。むしろスキンシップの時間のような、赤ちゃんのお世話をしているような、幸せな気分にすらなることがある。

もはやコトは瞬殺で済む。逃げないから押さえつける必要すらない。ちょっと頭を上に反らせば抵抗なく口をパッカーンと開けてくれる。そしたら舌に落ちないよう、真下に落とせば良い。落としたら、すぐさま口を閉じて鼻にフッと息を吹きかけて喉を優しく撫でつつ、チューブになっているちゅ〜るの「ちゅ〜ぶ」という商品をスタンバイしておき、それをすぐさま口に塗ってあげたら完了。

この時点で彼は、錠剤を飲まされた?ちゅ〜るをくれた?あれ、今どっちだった?みたいな顔をしているが、口先を舐めてるウチに「ちゅ〜る、やっぱ最高だな。」という感想で落ち着いているようだ。

ソルの口がひらく時に、自分の口もどうしてもひらいてしまうのは、子どもに離乳食をあげている時と同じでちょっと懐かしくなるのだった。

当初イメトレを繰り返したカッカッカッ大作戦は結局のところ実戦では一度も役に立たなかった。

成功の秘訣は投与直後に口先に塗り付けるちゅ〜るに他ならない。クスリを放り込むと、口先がチュパチュパとちゅ〜る求めてスタンバイを始める。その動きが嚥下を促すことに一役買っているように思う。

これは完全にオリジナルで邪道な手口かもしれない。YouTubeに登場する神動画の神たちがこんな姑息な手を使っているところを見たことがない。しかし私もソルも、この方法で大変友好的に投与ライフを送れており(多分)お互い大満足している。

唯一にして最大の難点は、こんなに投与しているのに、コロナを乗り越えても下痢は治らないことなのだった。

 

十一、ネコに錠剤。

 

 何か行動を起こす時は、事前に出来るだけの準備をしてから臨むことを理想としている。それによって自信が持て、良い結果につながる。

というわけで、先ずはイメトレから開始した。

具体的に言うと、YouTubeを見まくった。

「ネコ、錠剤」で調べると、出るわ出るわ、ネコの口に鮮やかに錠剤を放り込んでいる神動画がこれでもかと出てくる。

全部試聴した。

結果的にはこれらの動画が私に勝利をもたらしたことは明白で、繊細なテクニックや勇猛果敢に挑む姿にはたくさんの教えと勇気をもらった。

惜しげもなく神業を披露してくださったYouTuberの皆さんとプロ錠剤飲みの猫様たちには感謝の気持ちでいっぱいだ。

しかし気になるのは、登場ネコ様たちはみんなソルよりはるかに穏やかで大人な雰囲気を湛えていることだ。少しのことには動じない貫禄がある。

対してソルは、言ってみたらネコ科ビビリ属、あのユーチューニャー様たちとは違う科目に属するネコとしか思えない。

小中学生のように夢中でYouTubeを見まくる私のそばで呑気にくつろいでいるソルをたまにチラ見しながら、入念にイメトレをして作戦を固めた。

この時の私の脳内イメージを知ったらそばで寛ぐどころではなかっただろう。

名付けて三拍子(カッカッカッ)大作戦だ。三拍子でコトを済ませる。

最初の「カッ」で、左手でソルの頭部を後ろから包み込んで頬骨を押さえ顔を持ち上げる。

次の「カッ」で、右手中指でソルの口をガバッと開ける。最後の「カッ」で右手親指と人差し指で持った錠剤を喉の奥深くに向かって落とす。

そこまで遂行することが出来たら、あとは口を閉じて息をフーフー吹きかけながら喉をさすってゴックンさせればいい。

よし。

決行の時が来た…と、一瞬思ったが直ぐに思いとどまった。

万が一、噛まれた場合はどうしたら良いんだろう。

ググってみたところ、ネコに噛まれるとパスツレラ症という怖い菌に感染し、ズキズキと非常に痛い場合があるらしい。噛まれたらすぐに病院に行きましょうとアドバイスしている。

時計を見た。

ムスコが「ごはん何時〜?」とさっきから騒がしい。ルナも、ムスコと違って慎ましくながらも、目でハラヘッタ、と訴えている。

第一、このような夕暮れ時に急患が来たら、そろそろ定時だ、やったー!と思っている受付の人や看護師さんたちに心の中で舌打ちされることは避けられない。

人間が出来てない人だったら顔に出してしまうかもしれない。

うかつな人だったらうっかり目の前で舌打ちしてしまうかもしれない。痛いのにそんなことをするなんてあんまりだ…。

 

うん、今日はダメだ。

 

今日は、そう、明日の朝に備えてリハーサルだけしておこう。

私がこれから対峙しなければならないのは上野動物園のトラだ。イメージでもさすがに野性のトラはやめておこう。こわーい、デカーい、大トラ。本当にキケン過ぎるミッションだ。よくも先生は私にこんな命懸けの戦いを無茶振りしたものだ。でもやるしかない。

人類の存亡が私にかかっている。

…ここまで完璧にイメージした。そしてソルを見れば、なぁんだちっちゃいじゃん、これはもう楽勝でしょ、となる。

ヨシ。いいぞ。舞台は整った。

カッカッカッ大作戦の決行だ。

「カッ!」

ソルはここで既にパニック状態を呈して早速暴れ出した。私は一瞬だけ偶然開いたソルの口の中に、鋭くて真っ赤な、あやうく鬼のツノと見間違えてしまいそうな犬歯を見た。

慌てて手を離し、媚びるように「ごめんね、痛かったね、怖かったよね〜。もうやらないよ…」と謝った。ソルがあんなに凶暴なブツを口の中に隠し持っているとは。

今日はリハーサルだけにしておいて良かった。

その後先生が、やってみる価値はあると言っていたので、ムリムリ、わかってる、ムリだから!と呟きながら、錠剤をスプーンで砕いて粉にして、ちゅ〜るに混ぜる最も初心者向けの方法を試した。

うん、全然かからない。釣り果ゼロ。

これをぜんぶ飲ませるためにはちゅ〜る100袋必要。そのくらいの濃度じゃないと苦くて無理。

 

以前ルナがお腹を壊した時、他の病院だったが、錠剤を投与する自信がないと言ったら粉にしてくれたことがあった。

コレを飲まないと治らないと言われ、ちゅ〜るに混ぜてあげてみたが、苦さのあまり口から泡を吹き、しばらくの間、あんなに大好きだったちゅ〜るを持っていると、「ヒィ〜」と(心の中で)悲鳴を上げて逃げていってしまうようになった。ひょっとしたらあの時の薬は今回と同じモノなのかもしれない。

その時の病院で泡を吹いた話をすると「あ〜やっぱり、あのクスリ本当に苦いから。可哀想なことしちゃいましたね。」と言われた。それは自分に言ってるのか私に言っているのか…。

 

そうした過去があったので、オヤツに混ぜてあげる方法は期待しないでいられた。コレであげられたら1番ラクだけど、コレであげられないから錠剤があるのだ。

それでも試してみて、結果やっぱりダメだったことで完全に諦めることが出来た。

 

今夜は明日の初戦とヒーローインタビューに備えて早めに寝ることにしよう。

 

 

十、先生からの提案。

 

「おかあさん、おウチでやってみます?」

 

…そう。

先生が錠剤の投与を始めてからずっと気にはなっていた。

この錠剤の価格は1回半錠50円。

それが病院で処方してもらうことにより500円の処方料がかかる。また600円の再診料もかかる。合計すると1150円。それに10%の消費税が乗ってくるので、50円がなんやかやで1300円近くにドカンと跳ね上がるのだ。つくづく人件費、なのである。

2日おきだとなかなか症状が安定してこないので、朝晩が無理ならせめて毎日来た方が良い、とスタッフの方にアドバイスされたように、この錠剤の本来の薬効をきちんと発揮させるには日に2回の投薬が重要だ。

でも仮に朝晩2回通ったら他の薬も3種類飲んでいるのにこれだけで2600円。1日2600円。これだけで。しつこい。ちなみに私は睡眠に難を抱えているため、出来ることなら噂のヤクルトのY1000を週3回くらい飲みたいと思っているが高価格なので夢のまた夢だと諦めている。その額1日150円。税込み170円。

 

それでも。

自力で薬をあげられさえすれば一回につき1000円以上が削減できるとわかっていても、これはもう目をギュッとつむった。

だって絶対ムリ。

先生でさえ2人がかりで毎回やっと入れてくれているのだ。無事に投薬を終え、待合室にソルを連れて来てくれるスタッフさんだって、息を荒くしながら、

「今日も何とか入りました!」

と、報告してくれる。その表情からは、一仕事終えたような安堵感が伝わってくる。この仕事はカンタンではないことがよくわかる。

 

ネコの口をこじ開けて、そこに指を突っ込む勢いでクスリを入れるなんてできっこない。

あいつは幼少の頃、共に飼われていた、言わば同じ釜の飯、ならぬ空気を食っていたピーちゃん(インコ)に襲いかかり動物病院行きにした男だ。(ピーちゃんは重傷を負ったが幸い回復して天寿を全うした。)

そんな凶暴なエピソードを持つ脛傷オトコの尖った犬歯が指に食い込んだら…想像するだにムリムリムリ…。

 

そう思って今まで粛々とお会計を済ませていた。

が、うすうす自分でも、治らない、日参が大変、経費がかかり過ぎ、の3点セットからこれ以上目を背けるわけにはいかないと悶々としていたのも事実だった。誰かが立ち上がらねばならない。そしてそれが出来るのは私だけだ。

 

やるか、やってみるか、やるしかないのか…。

 

「失敗したらまたお願いしても良いですか?」と尋ねると「もちろん」と有難いお返事。私が失敗したらきっとますます警戒して先生も大変になるだろうに。

 

これはもう、やってやろう。頑張ろう。アイツの口の中に見事このデカい錠剤を放り込んで勝者になってヒーローインタビューを受けよう。そう決意したのだった。

 

 

九、老猫ソル、ついにお迎えか。

1週間が経ち、検査結果が出る頃だろうと病院に行ったところ、意外な結果が待っていた。

 

「コロナですね」

先生は、検査報告書の1カ所だけプラスの記号になっている場所を指差して言った。

意外過ぎる結果だった。まさかコロナにまで罹っていたとは。

 

猫界においてもコロナは禍を巻いているようで、体調の悪いコを調べると陽性であることが多いらしい。

ブリーダー施設などで抜き打ち検査すると、無症状にも関わらず半数は陽性などということもあるとのこと。

この待合室か診察室で感染したのだろうが、ここに来ていなければとっくにサヨウナラだったのでそれはもう仕方がない。

 

ルナは大丈夫なのかという不安が真っ先に頭をよぎる。

が、感染している可能性は高いが無症状で終わったのだろうとのこと、ひとまず安心した。チョビ漏れ問題で隔離する前はエサ皿も共用になってしまっていたのでおそらく先生の言う通り彼女も感染していただろう。

 

重篤な症状が出てしまったソルに関しては、コロナウィルスが変化して強毒化し、猫伝染性腹膜炎FIP)を引き起こしている可能性があり、こうなるともう助けるのがとても難しいとの話だった。

今の時点でFIPになってしまったかどうかはわからない、もし、なってしまっていたら出来ることはなく、あとは本人の生命力しかないとのこと。ここまで説明を受けてようやく、ここ数日間の急激な悪化の理由が腑に落ちた。さぁ、家に帰ろう、ソル。

 

それから数日のうちに、これまでのようなチョビチョビと、量にしてウサギの糞くらいの便が漏れ出るようなものとは全く様相の違う、茶色い液体がシャーシャーと、ところかまわず出るようになった。

 

数日後、いつもは「もう許して!」というくらいに鳴いて、起きろ起きろとうるさいチョルが起こしにこない。気配もない。探すと1人、リビングのテーブルの下でうずくまっていた。半年前にウチに来てから1番好きな場所(食べ物が落ちて来たらすぐにキャッチ出来る場所)。

今は本人が食べられるものなら何でもあげて良い(もちろん限度はあるがそこは大人だから判断つくよね)、と言われていたので、ちゅ〜るを鼻先に近づけた。

が、においを少し嗅いだだけで食べようとしない。

 

鼻先のちゅ〜るも食べられない状態まで弱ってしまったのは初めてだったこと、食卓の下から動かなくなってしまったこと、深夜にいきなり遠吠えのような鳴き方をしたことなどから、私の中では完全にフラグが立ってしまった。

 

正直なところ、お別れなのかもしれないという泣きたい気持ちと並行して、私の頭は今後のTO DOリストの作成に取り掛かっていた。この災害級と言われる、猛暑も酷暑も超えた凶悪という言葉がしっくりくるような暑さの中で旅立たれると、しんみり悲しみに暮れる猶予もなく急いで亡骸をなんとかしないといけなくなる。ネットで検索すると、ペットの火葬場が家からかなり近いところにあることに少しの安堵を覚えた。

 

後はもう、その時が来るまで見守るしかないと、YouTubeでネコがリラックスする曲を選んで部屋にかけたり、そばにいたりしていたが、たまたまその日はルナの検診日で病院に行く日だったので、ソルを置いて病院に行く。

 

出来ることはないと言われていたので、ルナを診てもらいながらソルの様子を先生に伝え、いよいよな気がしますという話をした。

すると先生は、しばらく黙り込んだ後、

「まだ出来ることがある気がします。連れて来れるようなら連れてきてください。」

と言ってくれた。

明日は病院が休みで、このまま看取ることに対して不安もあったため、帰宅するとケージからルナを出し、ソルを入れて再び病院に出発する。

 

そして。

ソルを見た先生は、

「致命的に悪い場所は腸だけ。心肺機能はまだ元気だから死ぬまでけっこうかかるかもしれない。その間しんどい思いをすることになってしまうから、今はまだ腸を治す方向でいきましょう。打つ手はまだあると思います」

というようなことを、オブラートに包んで言った。

FIPではない、ということなんだろうか。

いつものビタミンと葉酸の皮下点滴注射にプラスして、腸免疫調整の錠剤を投与された。

この錠剤、前にも一度先生が試そうとしたがソルが激しく抵抗して断念したという過去があった。ものすごく苦いこの薬、朝晩の服用が必要なのに病院でも投与が難しいのならば、ソルに関しては爪切りすら出来ない私が出来るわけないだろうということで今まで使われてこなかっのだ。

 

今回は、他に有効な処方がなく、飲ませるという選択肢1択だったため、先生とスタッフの方が2人がかりで投与してくれた。

投与が済んでから、何とかお口に入りました、とスタッフの方がケージに入ったソルを待合室に連れてきてくれた。

 

その日から、起き上がればシャーシャーと出ていた水便が、少しずつ回数を減らしていった。例えるならば、化粧水→乳液→クリームという状態にまで水分量が変化して行った。腸免疫錠剤の錠剤が効いたらしい。

本来、朝晩1錠のところを2日に1度通院して服用し、ひどい状態をなんとか脱出することができた。

 

ただ、1番ひどい状況からは脱したものの、病院への日参を3日サボればすぐに元の状態に戻ってしまう。5回程度の投与をした段階で先生に提案された。

 

「おかあさん、おウチでこのお薬やってみます?」

 

 

八、床を拭く日々。

慢性腸症と膀胱結石という2つの病気を抱えなが、薬をこれ以上増やすこともできず、見守るしかないままに日は過ぎていった。

下痢はお互いにつらい。

猫砂は買っても買ってもすぐに無くなる。

スコップは毎回拭かなければならない。

トイレでしてくれたらそれだけで御の字という悪化ぶりだ。

この子から普通便が出る日が来ることが想像できない。リビングのソファーでお腹に乗せ、その温かみでうつらうつらする日がもう来ないなんて切なすぎる。

そんな状態なのに、やっぱり腸内バイオームは全然食べない。

先生に相談すると、ヒルズの消化ケアi/dと消化・体重・糖尿病の管理w/dの2種類の療法食の試供品を、もうどっちをあげてみても良いですよ、と出してくれた。腸内バイオームにはかなわないが、どちらにも多少は腸に良い同じ成分が入ってるとのこと。

しかし、帰宅して早速試してみたものの、どちらもかえってひどい下痢に拍車がかかってしまった。慣れないフードだったこともあってか、まったく良くならない。

トイレットペーパーとボロ布、ウタマロにマイペットに重曹の使用頻度は相当激しく、床の拭き漏れがないか、忍びのような足取りで慎重に歩くのが常になった。

1週間が経ち、再度病院で窮状を訴えると、先生の目から見ても明らかに生気がないということで、半日預かって様子を見てみたいと言ってくれた。

夕方病院に迎えに行くと、ちょうど私が着いたタイミングで下痢便が出た。

15000円かかりますが、この便で10種類くらいの病気の検査が出来ますがどうします?と聞かれる。

正直、検査を受けたところで治ることが保証されるわけではまったくなく、あくまで治す手がかりが見つかるかもしれませんね、という話だ。

今のところ、下痢に関しては「慢性腸症」という状態であり、この状態を引き起こしている原因がわからず、そして慢性腸症の状態は治すのがとても難しいと言われている。

これまでの半年間、月々のソルにまつわる出費はならして約5、6万円。労力の方は、ルナの10倍以上。実際のところツラい、の一言。泣きそう。

でもこのソルという猫は、何だかんだで強運の持ち主(のような気がする)。

ここで便を出したということはもう運命だと思い、お財布は泣きそう、私も泣きそうになりながらも検査をお願いする。

半日預かってもらって今日はラクだったと思っていたら、帰りの車中でビシャッとやられてしまった。それだけは勘弁してと必死で脱走を図る下痢便まみれの老猫を、そうはさせじと帰宅後すぐにシャワーしたのだった。

猫の紙オムツがあるのは前から知っていた。いよいよ買う時なのか。先生に相談してからとも思ったが、いずれ使うかもしれないのと、パッケージのオムツをしたアメショの猫が可愛過ぎてついつい買ってしまった。

開けてみるとそれはもう可愛い!赤ちゃんの小さなオムツがより小さくなったのだから当たり前だ。

チェックの小さな紙おむつは、猫がこれをする時の状況を考えたら微笑んでいる場合ではないのだが、こんな状況にも関わらずテンションをいっとき上げてくれた。

まぁでもコレをあいつが簡単に履かせてくれるわけもないし、こんなに可愛いオムツを汚したくないし、オムツかぶれ的なことになるかもしれないし、何よりきっとソルのストレスになるから当面は愛でる専用だ。

とりあえず、家中フンだらけにするわけにいかないので、外出時や見切れない時には来た時と同じ部屋に隔離することにした。

 

そうこうしてる間に1週間が経ち、検査結果が出る頃だろうと病院に行ったところ、想定外の結果が待っていた。

七、好転と悪化と。

そんなわけで、腸内バイオーム6、ユリナリー3、消化器サポート1を理想的な給餌配分として、この3種類を和えて提供すること2週間、だましだましではあったものの、幸いにして結石の石はエコーで確認するたびに小さくなっていった。

おそらく薬では溶けないタイプの結石だろうと言われていただけに、これは本当にラッキーなことだった。

これが溶けない石だったら、サイズも大きかったし手術が必要だったかもしれない。でもソルは14才、重い病気が他にもあるのに、手術を受けることが良いことなのか、きっとすごく悩んだことだろう。

まあ実際のところ、彼が口にしていたのは比率で言ったら、ユリナリー7、消化器サポート2、腸内バイオーム1という、理想とは程遠い感じだったので、結石を溶かす成分はきっちり体に送り込まれていたはずだ。

一方で、ベリチームと胃腸薬はそのまま服用していたものの、ステロイドは半分の量に減らしたので慢性腸症の方はあまり芳しくないまま、わずかながら下降線をたどっている感じだった。

 

そんな日々の中、何とかかんとか小康状態を保っていたソルの症状が、ここにきてまた一段階悪化した。

注射を打ってもらってもそこまで下痢が持ち直さなくなり、ステロイドもベリチームも胃腸薬も効いてる気配がない。特に何か思い当たることもないままに何故か下痢はひどくなる一方だった。

 

ちょい漏れも復活してしまった。復活どころか、座るたび、立つたびにチョビチョビと鹿のフンサイズが漏れるので、いよいよオムツか隔離かの2択にせざるを得ない状況になった。

あれよあれよという間に悪化の一途をたどり、どうも今までの状態とはまた違う段階に入ったような予感を感じずにはいられなかった。

これまでは劇的な改善はなくても、ほんの少しずつ良い方向に向かっている気がしていたのだ。

 

一体ソルの体に何が起きているんだろう。