六、ごはんスト。こじらせ編

結石を溶かすためのおクスリごはんとして勧められたのはロイヤルカナンの「ユリナリーS/O エイジング7++CLT」 だった。

腸内バイオームより粒が大きく色も明るい。

腸内バイオームがぬれ煎餅だとしたら、こちらは薄焼き煎餅でサクサク食感といった感じだ。

薄いからか、パリパリと良い音をさせながら美味しそうに食べる。

どうやらかなり気に入ったらしい。

 

腸内バイオームに少量のユリナリーS/Oを混ぜると、麻薬捜査犬のような真剣さで臭いを嗅いでユリナリーS/Oを拾い食いし、たまに間違って腸内バイオームの方が口に入ると、それは人相の悪い顔つきで、ケッ!ペッッ!と口から器用に吐き出す。

 

真剣に腸内バイオームを吐き出し続けた結果、案の定またひどい下痢便に逆戻りしてしまった。

 

ですよね。

さてどうしよう。

さてどうしようと考える日々。

 

1番初めに思いついたのは、ふりかけ作戦だ。

腸内バイオームの上に、トンカチで叩いて粉砕したユリナリーS/Oの粉をかける。

かなりの量をふりかけたにもかかわらず、この方法は玉砕した。においを嗅いだのち、フンッという声が聞こえそうなくらいふてぶてしい表情で去っていってしまった。

吸着が足りなかったかと、軽く霧吹きで水をかけたが結果は変わらなかった。

 

王道で、今度は腸内バイオームにちゅーるを載せることもしてみた。

するとちゅーるだけを舐めてしまうことがわかったので更にしっかり混ぜてみた。が、混ぜるのは邪道と考えているらしく、もう食べない。

 

バイオームをササミの茹で汁に浸してみた。食べない。

 

猫が好きだという40度手前まで温めてみた。食べない…。

 

手に乗せて少しずつ。食べない…。

 

だしパックの中に鰹節、またたびを詰めたものを腸内バイオームの袋に入れた。

腸内バイオーム・カツオ節風味と腸内バイオーム・またたびの香り付き、腸内バイオーム・カツオ節とマタタビMIXの3種をご用意、提供してみた。はい、全部却下。

 

あーどうしよう、と考える日々の中でアイデアが浮かぶのは大抵お風呂に入ってる時だ。

 

ふと思いついたのはロイヤルカナンの消化器サポート。あげたこともないのに急に閃いた。あげたこともないのに何故か閃いたってことは天啓かもしれない…そう都合よく考えたらもう居ても立っても居られず、本来は先生に確認するべきところをすっ飛ばしてペット用品店で買ってきてしまった。

消化器サポートは2種類あり、繊維バランス構成が異なる。便秘気味の子におすすめな可燃性繊維ではないノーマルタイプの方を購入した。

消化に良いならば大きな問題にはならないはずだし、ひょっとしたらコレで劇的に改善するかもしれない、そしたら先生になんて言おうか。頭の中には既に先生からヒーローインタビューを受けている自分がいる。はやる気持ちを抑えて腸内バイオームに少し混ぜて皿に盛ってソルの前に置く。

 

パリパリ煎餅食感のユリナリーと同じく、やはりコレだけを食べようとする。しかしこちらは腸内バイオームより粒が小さいので、コレだけを狙って口に入れることが難しい様子。入れるのが難しいだけあって、一度入ってしまったらコレだけ食べてバイオームをケッ!ペッ!と出せず、やむなく一緒に飲み込んでいる。

かなり不本意そうな顔をしているが、嗜好性が高いと記載があるとおり、どうやら消化器サポートを食べたい気持ちがバイオームを食べたくない気持ちに勝ったらしい。

ここでようやくバイオームを多少胃の中に送り込むことに成功する。

 

しかしながらこれはヒーローインタビューを受けるにはほど遠い、中途半端な成功だった。

なぜなら下痢は全然良くならなかった。おそらく新たに加えた消化器サポートはサポーターとしての役割をソルの胃腸では発揮できず、新たな侵入者として警戒されてしまったのだろう。

 

結局、さまざまな工夫も空しく、週に一度、病院で葉酸とビタミンの注射をしてもらうことでかろうじて調子を取り戻すという日々だった。

ちなみに、なぜ葉酸とビタミンのようなポピュラーな栄養分で調子をある程度取り戻せるのかは、なんででしょうね?と先生も苦笑いなのだった。

五、膀胱炎…からの膀胱結石。

低空飛行ながらも順調に数日間が経ったある日のこと、心なしかソルのトイレのおしっこの塊がうっすらピンク色に見えた。

紙製の猫砂には時折、色が混じることもあるし、光の加減もあるし…と、ここは何としても「気のせい」ということにしておきたかった。老眼だしね、と。

今ここで別の病気を併発するのは勘弁してもらいたかった。

実際、最初に見つけた時は気のせいということにして黙認した。

が、2度目はうっすらピンクではなく、完全に赤、もう気のせいには出来ないところへもってして、ムスコが見つけてとどめを刺した。

病院で採尿してもらったところ膀胱炎とのこと。膀胱のエコー写真には、見たくなかった存在感のあるデカい石がはっきりパッチリと写っていた。結石だ。

コレが見えてしまったら一過性の膀胱炎では済まされない。

まずは療法食で溶けるタイプの石か試してみることになった。先生の見立てでは、年から言っても写真の雰囲気からしても、おそらく溶けないタイプではないかとのこと。

若い猫はクスリで溶けるストルバイト結石、年を取ってくると溶けないシュウ酸カルシウム結石になる傾向があるそうだ。

…。…しかし困った…。

…。療法食…。

 

今ソルの下痢は、腸内バイオームにステロイド、それからベリチームに加えて、胃腸薬でもって何とかかんとか、ギリギリの状態に抑え込んでいるところだ。

そこに結石を溶かす作用のあるゴハンを試す余裕はまったくない。

加えて、今の下痢の改善に効果を発揮してくれているステロイドは、長く服用すると感染防御機能を落としてしまう。膀胱炎になってしまったからには、できるだけ早く服用をやめなければならない。

それによしんば結石が溶けてくれたとしても、再発リスクを考えたら療法食は続けていかなければならない。

 

とにかく、両立が大変難しい2種類の病気に罹ってしまったことになる。

先生も頭を抱えてしまう状況になってしまったが、結局、当面の間は結石の療法食と腸内バイオームを併用し、ステロイドは少しずつ量を減らしてフェイドアウトを狙ってみることになった。

果たしてうまくいくんだろうか。

ウチに来てから数ヶ月、ようやく落ち着いたかと思うと必ずまた何かが起きる、その繰り返しだった。

 

四、更なるお題、次の病。

通称家庭内ノラ猫、ソルの食汚さを克服し、なんとか腸内バイオームを食べさせるため、まず2匹のゴハンはコレ一本でいくことにした。

幸い、腸内バイオームはルナが食べても問題ないと言われた上、彼女はこの味がとても気に入り、軟便気味だったのがすっかり改善したという思いがけない副次効果もあり、置きエサにできるところも魅力だった。

床に一欠片、一粒たりとも人間の食べ物を落とさないようにしていても、時折り何かをハムハムゴックンとやっていたソルだが、他に主食となるようなものが何もなければ腸内バイオームを食べるより生きる術はない。

気が乗らない様子のお手本になれるくらい、わかりやすく気が乗らない様子ではあったものの、何とかチョコチョコと食べるようになっていった。

その結果、波はあるものの数日に一回はソフトクリームに少し勝てるくらいの便が出るようになり、やれやれやっと少し光が見えてきたなとホッとしたところでお約束のように次なる課題が提出されたのだった。

三、老猫のごはんストライキ。

効き目絶大、ネットの口コミでも美味しそうに食べると評判のヒルズの腸内バイオームだが、実家で拾い食いを趣味とし、父の気まぐれで与えられた人間の食事と、母にクスリと混ぜて与えられていたヨーグルトを日常の楽しみとしていたソルの心を掴むことは出来なかった。

どんなにハラヘッタ!と訴えている時でも、腸内バイオームのことはゴハンとして認めないのだった。

最初に試した療法食、ロイヤルカナンのアミノペプチドの方は、ルナの口にまったく合わない一方で、ソルは嫌がらずにパクパク食べた。

しかし腸内バイオームは、ルナが合格点を出して機嫌良く食べる一方で、ソルは2回食べたのち、これは食べ物ではない、とジャッジした。

とは言え、本人がなんと思おうと腸内バイオームを食べると下痢が良くなるという事実は既に確認されており、他に有効な手立てはない。

何とかして食べてもらうより他ないのだった。

室内飼いのノラ猫、呆れた姉にそう呼ばれていたソルは、ルナと違って家人の目を見計らってはすぐに食卓に乗った。また、ルナは一度たりとも攻略したことも、しようとしたこともないキッチン手前にある侵入防止用のゲートのスキマから易々とキッチンに入ってきた。

特に晩ごはんがアジの開きやサバの塩焼きだった日は執拗に拝むし、食卓に誰かがつこうものなら、何かがこぼれ落ちてくるかもしれないと、その下を離れないのだった。こんな風に食汚くなってしまった子に、工夫を凝らして美味しくしてもらっているとはいえ、基本クスリな療法食を一体どうやって食べてもらえば良いのか…。

トライ&エラーを繰り返す日々が始まった。

二、怒涛の動物病院通い。

ほとんど拉致状態で、いきなり十数年住み慣れた家とあっさり今生の別れをすることになったソル。

人間で言うと76才の病気のじいさんは、初めての環境に怯えまくっていた。

かつての飼い主とか、かつての同居猫のことなど、もはやすっかり記憶の底から消し去っていたため、頼りになるのは姪のお下がりで母が持たせたピカチュウの毛布だけだった。

閉じ込められた部屋の中から出して出してと哀れな声で昼夜鳴き続ける。鳴くと腹圧がかかるのでそのたびに便が漏れ、それを脚で踏んづける。疲れ果てるとボロボロになってしまったピカチュウの上で眠るという、本人も私も辛く切ない日々だった。

f:id:onoesan:20221031083306j:image

吐くことも非常に多く、少しまとまって食べたかと思うとすぐにその全てを吐いてしまった。そのため少量のごはんを頻回に分けてあげる必要があった。

当然、病院へは日参することとなった。

この頃は下痢と並行して緑がかった嘔吐が多かったので膵炎が疑われ、人間と同じベリチームという膵炎用の薬、それと胃腸薬が処方された。

療法食はロイヤルカナンの「アミノペプチド」という高級療法食を勧められ、試すことになった。

「アミノペプチド」はパクパクと食べたし、2種の薬もちゅ〜るに混ぜると喜んで食べた。

これで10日間くらい様子を見た。

ちょい漏れが多少減ったものの、便はまだまだ固まる様子がなかったし回数も多かった。嘔吐も続いた。

そこで次なる手としてステロイドが追加処方された。

これはすごく効いた。

特に嘔吐が激減した。

相変わらず下痢だったが、1日中どこでもチョビチョビと漏れていたのがほぼなくなり、日に5、6回、トイレで排便できるようになった。

また、ステロイドの副作用で食欲が駄々増しした。

小さな頃からゴハンをねだる時は、後ろ脚2本で立ち上がり前脚2本を拝むように擦り合わせる。

母がそのポーズをするたびに「ちょーだい、ちょーだい?」と毎回返事をするうちに「ちょうだい、ちょうだい」と声をかけるとそのポーズをするようになったのだ。

結果、仏壇の前で手を合わせて拝むことができるようになったため、めざましテレビに投稿したところ取材を申し込まれたこともある。

ステロイドを投与されるようになったその日から私は終日彼に拝み倒されるようになった。

このポーズは単発で見るととても可愛い。

が、1日中エンドレスで繰り返されると結構つらい。

「プライドをかなぐり捨てて老猫がここまで必死でお願いしてますよ、あなたそれでも知らん顔ですか?」

と、責められているような気分になる。

 

何度、それは呑めない要求だと説明してもへこたれない。はぁ?という顔をして、しれっと立ち上がってはまた拝む。コイツはワザとやっているのではないかとも思う。もはや嫌がらせか。

そう感じたのは、けっこうな病気持ちとは思えないほど、そのポーズを決めている時の目がイキイキとしていたからだ。

f:id:onoesan:20220924112401j:image

 

そんなわけで、ステロイドでかなり良い手応えがあったもののまだまだ下痢は下痢。

ということで、次なる手としてヒルズの「腸内バイオーム」という療法食を勧められた。

これまた、とても、とても強力だった。

まったく固まることがなかった便がなんとなくクリーム状に、時にはソフトクリーム程度の形状を保てることもあった。

もともとユル便で、床に敷いたマットにお尻を擦り付けて拭うことを日課にしてしまったルナまで、ソルのゴハンを失敬するのを黙認するうちに抜群に調子が良くなった。

腸内バイオームの開発者様には感謝のしようもない。

ただこの素晴らしいゴハン、ソルが大人しく食べたのは最初の数回だけだった。

ここから療法食をめぐる試行錯誤の日々が始まったのだった。

 

一、そして再び飼いネコ2匹。

我が家には現在、2匹の猫がいる。

2匹とも立ち耳のスコティッシュフォールド。同じ種類だけど見た目は全然違う。ペルシャと、完全なアメショといったところだ。

ペルシャチックなのが女の子で、名前がルナ。

f:id:onoesan:20221030175015j:image

アメショにしか見えない2匹目がオス。名前はソル。

f:id:onoesan:20221030175530j:image

スペイン語でルナは月、ソルは太陽という意味だ。

良い名前を思いついたよね、と、主人と2人で悦にいっていたが、ほどなくして、極めてありきたりな名前だということに気がついた。

 

実際、名前をつけて1週間後には、セーラームーンの飼い猫の名前もルナだということを知った。

勤め先の保育園には、ルナちゃんという女の子がいたし、動物病院の顔馴染みにもパグ犬のルナちゃんがいる。少し車を走らせば、ソルナ動物病院という名の病院まである。斜向かいの家に住む女の子の名前まで、どうやらルナちゃんらしかった。

が、そう気づいた時には、既にその名前で呼ぶと2匹とも「にゃ」と、返事をするようになっていた。

ありきたりな名前を付けられた2匹の片割れ、ルナの方は、14年前にソルより2ヶ月先に我が家にやってきた。小さな体に病気をいっぱい背負い込んで来たのはお迎えしてからわかったことだ。

 

ココロもカラダも繊細で、フワフワのモップみたいだったルナは、生まれてまだ2ヶ月にして病院の先生からたくさんの病名を頂戴した。

日に日に痩せていったが、朝晩通院して点滴しながら何とか生き延び、無事に成猫になることに成功した。

今では、「こういう子に限って長生きするよ」という最初に診てくださった先生の言葉どおり、関節痛に粉瘤、甲状腺機能亢進症といった、いかにも年寄りっぽい病気を抱えながらも、ヨタヨタと生き延び、押しも押されぬ老猫の域にまで達している。

 

もう一方のソルの方は、去年の冬、13年ぶりに我が家に出戻ってきた。我が家といっても引っ越したし、ウチにいたのは子猫の頃のほんの数ヶ月だけだったけど。

ソルは14年前、我が家に来て早々、ルナからトリコモナスをもらった。ルナはトリコモナスという感染病も持っていた。これはソルに感染してからわかったことだ。

この時奇しくも、辛くて長い不妊治療を経て奇跡的に妊娠初期に至っていた私は、このトキソプラズマとよく似た名前の感染症が恐ろしく、また弱っていく小さな2匹を前に不安が押し寄せてきて、クマのような動物病院の先生を前に涙が出てしまった。

悩んだ挙句、トリコモナスが完全に治癒した段階で、元気いっぱいで血筋も完璧、まだまだ子猫で売れ線間違いなしのソルの方を里子に出すことに決めた。

渾身の力を注いでビラを作り、ネットの掲示板に投稿したところ、3家族がすぐに名乗りを挙げてくださった。

 

が、結局のところ、ソルは実家のネコとなった。

ルナと隔離する必要があって、実家に数日預けているうちに甥っ子の情が移り、飼って飼ってと家族を泣き落としてくれたのだ。

 

そこから13年、実家でぬくぬくと平和に暮らし、無事にでっぷり太った老メタボ猫になれたソルだったが、ウチに来る1年ちょっと前から原因不明の下痢を乱発するようになってしまった。痩せて、少量の下痢便が家の至る所で出てしまう。

実家には動物病院まで頻繁に連れて行ける家人がおらず、病院の先生に言われて一時的にフードを変えてもみたらしいが根本的な解決には至らず、主たる世話役の母の負担は日に日に増していった。

そんな状況を電話では聞いていたものの、久しぶりに実家に帰ると、そこには、けっこう大変そうな目に遭ってしんどそうな母と、けっこう大変な目に遭わせている割には元気そうなソルがいた。

 

相変わらず病気と縁が切れないルナが、しばらく病院ジプシーだったところに、運良く良い動物病院に巡り会えたところだったこと、一軒家に引っ越して、状況によっては隔離する部屋があること、お世話が大変な赤ちゃんだったムスコが期待の戦力に成長していたことから、一念発起して我が家に再び迎え入れることにしたのだった。

 

おかえり。ソル。

 

そんなわけで、再び2匹の飼い猫との生活が始まった。

 

f:id:onoesan:20220923084206j:image