そう。ゴールは見えている。
しかし、ゴール手前にはデカい壁がそそり立っていた。
子ネズミ一家が、本当にいなくなったのかの確認作業である。
万が一にも閉じ込めてしまった場合、どんな行動に出るかわからない。
頭に来て電気のコードをかじりまくるかもしれないし、どこかをカジカジホリホリして、新たな出入り口を作ってしまうかもしれない。
そうでなくても、そのままご逝去された場合、ご遺体の場所がわからないと非常に厄介だ。
そこで最後から2つ目のミッションを決行することにした。
これは大変過酷な任務である。
でも、これをやらなければ作戦を完全に終わらせることはできない。
ネズミと言えば何か。
ネズミ、と言えばチーズだ。
他には?
ふかし芋、らしい。
まずはその2点を用意した。
小さく切ったチーズと蒸した芋、それからホイホイをたくさん持って、和室の天井裏に向かった。
点検口を開ける。
雑然とした空気。
2階の天井裏と違い、断熱材のビニールが破れて中身が出ていたり、ずれていたりと、いかにもそこに生き物がいた形跡がある。
整然と並んだ梁。
出来るだけスキマがないように、点検口から梁を伝って、子ネズミ一家が通りそうな箇所にホイホイを置いていく。
そしてホイホイの上に、チーズやイモをトッピングのように少しずつ置いていく。これでヨシ。
あとは数日間放置したのち、点検口を開けてホイホイされていないかどうか、確認するだけである。
え?それだけ??
なんでそれが過酷な任務なの!?
と思われるかもしれない。
だが、想像して欲しい。
点検口を開けて、暗闇の中、頭をヌッと天井裏に突き出した時に、眼前のホイホイに子ネズミ一家がホイホイされていたら…と。
足元ではない。距離にして目元から30センチ近辺にホイホイされているかもしれないのだ。
まだご存命かもしれないのだ。あなたは耐えられるだろうか。
確かにこの数週間、子ネズミ一家には何度も忸怩たる思いをさせられたし、不快この上ない気分にもなったし、主人は皮膚科にも行った。
が、ある意味、我が家を選んで同居していたわけである。こちらとしては出て行って欲しいだけで、命までとりたいわけではない。
和室の天井裏がバタバタとうるさい音を立てないことを祈るしかなかった。
そして数日後。
恐る恐る、点検口を開けた。
この一瞬は、初めて和室の天井裏を開けなければいけなくなった時の何倍も覚悟が入り、正直怖かった。
視界がボヤけるように目を細めて、そぉっと、ゆっくりと開けた。
天井裏は、シーンと静まり返っていた。
そこにはもう、生き物がそこにいることを感じさせる空気はなくなっていた。
キレイなままの粘着テープと、その上に置かれたチーズとサツマイモが、コロンと、誰にも見つからないまま、そこにあった。
終わった。
安堵のため息がもれた。