節分の日を勝手にずらした上、北北東に向かって恵方巻きを食べたことが神様にバレてしまったのかもしれない。
節分がとても地味だった話。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。
インフルエンザの出席停止が明け、意気揚々とサッカーの練習に出かけたムスコが鎖骨を骨折してしまったのだった。
主人は、私と結婚するまで一度も骨折したことがなかったくせに、入籍以来これまで三回骨折している。
一度目は新婚旅行の一週間前で二度目は京都への観光旅行の一週間前。
三度目はまさかの夏休みの旅行一週間前。
骨折に関してはパンクチュアルである。
思い出の写真は、どれも素晴らしい風景の前で撮っているのに、首から下げている三角巾やギブスだけがやたら記憶に残るのだった。
一方ムスコは、今回が生まれて以来二度目の骨折である。
前回は左鎖骨。
鎖骨はこれでコンプリートした。
二人合わせてトータル五回に及ぶ骨折は、すべてサッカーの試合中に起きている。
決して口にすることは出来ないが、運動神経にふさわしいスポーツをすれば良いのに…と思っている。
口には出来ない。
ただ今回は、この速報を受けた時に心から安堵したのだった。
なぜなら昨日、たまたま見ていた雑誌の記事の中に、
「いつもどおり子どもを送り出したら、学校から怪我をしたという連絡が来た。さてはまた転んだか…と思いつつ向かったら、意識不明の重体だった…」
という恐ろしいエピソードがあったからだ。
だから今朝はいつもの何倍もしつこく、怪我のないように、無理をしないように、道路においては車はすべて攻撃してくる敵だと思え、などと、くどくどと注意喚起して送り出したのだった。
骨折で済んで良かった、と心から思った。
休日診療の病院に辿り着き、泥だらけの服を、先生と看護師さんと私の3人がかりでゆっくりと脱がす。
半袖のユニフォームは何とか脱げたが、困ったことに鎖骨が折れているためインナーがなかなか脱げない。
本人、痛みのあまり絶叫。
その様子があまりにかわいそうで、
「先生、もうインナーはハサミで切っちゃってくだ…」
と、言いかけたその時、インナーをよく見てハッとした。
ムスコがその時着ていたインナーは、チームのユニフォームでめちゃくちゃ高かったやつ…。
口をつぐんだ私を見て、全てを察した先生と看護師さんは、再び、
「さあ、すぐ脱げるよ!頑張って。」
とムスコを励まし始めた。
当然私も、
「すぐ脱げるよ、大丈夫!頑張って。」
と全力で励ましたのだった。
帰宅後も、まだまだ辛そうなムスコ。
押し黙ってじっとしている。
そりゃそうだ。
せっかくインフルエンザが治ったところなのに。
落ち込むよね。
そうだ、あの雑誌の話をしてやろう。
この程度で済んで良かったんだよ、と。
励まそうとしたその時、ムスコが顔を上げた。
「今回の怪我は、ある意味リベンジだね。」
と言う。
意味がさっぱりわからない。
ムスコは続ける。
「だからさ。前回は左。今回は右だよ。この調子なら、あと二週間くらいは字なんて書けないから再来週の定期テストは絶対に間に合わない。」
嬉しさのあまり鼻をひくつかせている。
あげく、
「おかーさん、この場合"転んでもタダでは起きない"と"怪我の功名"、普通はどっちを使うの?オレは怪我の功名かな、と思うんだけど…。」
「どっちでもええわ!」
と答えながら、来年の恵方巻はキチンと向きを確認してから食べようと心に誓ったのだった。