パソコンが家族公認になった話。

姪からもらったノートパソコンに、涼子という名前を付けた。

涼子を見たら、息子もきっと欲しがるだろう。

そう思った私は、これまで涼子の存在を息子にひた隠しにしてきたのだった。

しかしもう限界、いつまでも隠してはおけない。そこでとうとう涼子を隠さずに、リビングに置いたまま寝ることにした。

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翌朝。

起きてきた息子は涼子にまったく気づかなかった。

朝に弱い彼は、今日もまた、一体何がそんなに気に食わないのか、朝が来たことがそんなに許せなかったのか、安定の機嫌の悪さである。

何を話しかけても感じの悪い「反抗期」の息子のイケスカナイ態度に、「更年期」の私の方も到底我慢がきかない。

リビングの空気は瞬く間に凍りつき、戦いのゴングが朝っぱらから鳴ってしまったのだった。

戦いというか、言わば先に話しかけた方が負けというゲームである。

主人は今回、参加せずに中立の立場を決め込んだようだった。

突然の流れ弾に被弾しないよう、早々とリビングから退散していった。

しかし、息子のセコンドをつとめている様子で、「刺激するな」などのアドバイスを送っているのが聞こえてくる。

また、「おかーさん、お茶でも飲むかい?」などと笑顔で話しかけてくる。

張り詰めた空気を、無駄と知りつつ何とか和らげようとしているようだった。

ご主人も大変ね、と思われるかもしれない。

しかし、これはもうリーグ戦とでもいうか、本日登板するのがたまたま息子と私というだけのことで、持ち回り制のようなものだから仕方がないのだった。

それにこのゲームは長くは続かない。

お互いにどうしても伝えないわけにはいかないことを渋々伝えているうちに日常に戻らざるを得ない。

同居人と口を聞かないという行為は、よほどのことがない限り長く続けるのは骨が折れる。

ただ今回は、期せずしてこのタイミングでこのゲームが始まったことを私は内心ほくそ笑んでいたのだった。

ヨイショと涼子を持ち上げ、息子の視界に入る席に移動した。

息子は「おっ」という顔をしたけれど、私の視線に気づいて慌てて目を逸らした。

思惑どおりだ。

そっと二度見しようとしてきたその時、間髪入れずに、

「これお母さんのだから。触らないでよ。」

と言う。

すると、

「…は?はぁ?誰が触るって言った?ってか前から知ってるし。」

よし、これでいい。これはもう、触らないと言ったのと同じだろう。

…ん?今のどういうこと?パソコンがあるの知ってたの?

どうやらセコンドから事前に情報が入っていたらしい。

想定外の事態に一瞬怯んだが、さておき、まんまと「触らない」という言質を取り付けることに成功したのだった。

ゲームには負けたけど目的は果たした。

ただ、よくよく聞けば、新しいパソコンだと心血を注いでいるマイクラの設定を最初からやらなければならなくなるため、よほどのハイスペックでもなければ興味がないということだった。

お下がりの涼子なんて最初から眼中になかったのだ。

それはそれで何だか悔しい。

あんなに隠すの大変だったのに。

とは言え、このタイミングで伝えたことにより、「こんなことも出来ないのか」とか「ちょっと貸してみろ」などの冷やかしや、面倒くさいことを言われることもなくなった。

やれやれだ。

ただ。

うかつにも考えていなかった。

このブログを見られたらどうだろうか。

それは…あまりよろしくないかもしれない。

触らないという約束はしたものの、結局のところ、書くときはコソコソとやるしかないのだった。あーあ。