ミナトに感謝した話。

家の近くの下り坂を歩いていたら、ひさしぶりにミナトを見かけた。


ミナトは我が家から歩いて5分くらいのところに住んでいる小学一年生で、登下校の時にウチの前を通る。


息子の同級生の一番下の弟である。


息子のことを不思議なほど気に入っており、年の差7才にして一番好きな友達だと言ってくれている。


そのミナト、なぜか道路脇に座り込んでランドセルの中身を地面に出して、何やら真剣な面持ちだ。


何をしているんだろう。


夢中になっている様子だったので、声をかけずに帰宅し、たまたま目についたガレージの雑草を抜いていたところへミナトが歩いてきた。


「おかえり!あそこで何してたの?」


声をかけると、


「今日、学校でランドセルを開けたら筆箱が入ってなくて、テレビのリモコンが入ってたんだよ。それで、いつリモコンに変わったんだろうと思って、時々ランドセルを開けて、筆箱に戻ってないか確認しながら帰ってきたんだよ。」


と言う。


「なるほど…それでさっきランドセルから出してたんだ。」


と言うと、照れくさそうにニヤニヤ笑うのだった。


目下、私のたくさんいる癒しの存在の1人である。


先日は、宿題の国語ドリルの最後のところにあった「あなたの一番仲の良い友達の名前を書きましょう。」という設問に、ウチの息子の名前を書いていたとミナトのママが教えてくれた。


ほっこりした気持ちを思い出していると、


「ねえ。オレたち初めて会ったよね?」


と言ってきた。


あー。またか。


ミナトとは小さな頃から何度も会ってはいるが、頻繁ではないので、少し間が空くと忘れてしまう。


そもそも私の顔をはっきり認識しているのではなく、この家の前にいる人だから多分友達のお母さん…という程度なのだろう。


私も、我が家の前を犬の散歩ルートにしている顔見知りはたくさんいるけれど、果たして犬がいなかったらわかるだろうか。


甚だ怪しいのだからミナトを責めることはできない。


からしばらく会わないと、


「オレら初めて会うよね?」


と、ナンパのような口ぶりで言ってくる時は、面白いので、


「初めてだね。名前はなんて言うの?」


など、さんざん色々喋ってもらう。


おしゃべりが大好きなミナトはどこまでも話し続ける。


でも、そこに友達が来たらスイッチがキレイに切り替わる。


こんなオバサンは最初からいないも同然、綺麗さっぱり頭の中から消え、今度は100パーセント、友達のことで頭がいっぱいになる。


そんなだから、遠くに息子の姿を認めると、もう心も身体も完全にそちらに飛んでいった。


息子に向かって全速力で走っていく。


ミナトの頭の中には余計なものが何もない。


走り去っていくミナトは元気のかたまりだ。


息子と嬉しそうに並んで戻ってくるミナトに手を振りながら、


「一回おウチに帰って、ママにリモコンを見せてあげなよ〜」


と叫ぶと、ニコニコ笑いながら大きく手を振りかえしてきた。


すると、絶賛反抗期中の息子もミナトにつられて笑って手を振ってきた。びっくり。


びっくりだけど嬉しい。
ミナト感謝!!


もうしばらく、大好きな友達だと思っていてくれますように。