7月15日。先週の土曜日。
ルナ(メス猫15才)の膀胱結石が見つかってからちょうど1週間が経った。
1週間のあいだ、朝晩1錠ずつ飲ませていた"ウロアクト"の効き目を確認するため動物病院に行った。
ウロアクトは、数多ある結石用の療法食のどれを試しても下痢になるソル(オス猫15才)に、苦肉の策として飲ませていた尿石予防のサプリメントだ。
予想以上に効いたため、二匹目のドジョウ作戦でルナにも使ってみようということになったのだった。
結果は良くも悪くもなかったが、ソルのために買った在庫もたくさんあるので引き続き注射と併用しながら様子を見ることになった。
ソルの食欲が復活したことを伝えると、先生もスタッフの皆さんもたくさん褒めてくれたので、帰宅後すぐに彼に伝えた。
ふうん、そうなの…という顔をしていた。
日曜のお昼になって、いつまた急変するかわからないから散々迷ったけれど、ソルが(たまに)食べる(時もある)、彼のおなかを整えてくれる上に尿石も予防してくれるカリカリを注文した。
※ロイヤルカナンの"pHコントロール+満腹感サポート"。病院でのみ購入可能。
その後ホームセンターで、いつもの猫缶と良さそうな猫缶を数種類吟味して購入し、1時間くらいで帰宅したらソルはまたすっかり元の重症患者に戻っていた。
ああ、もういっときも気が抜けない。
全部が悔いになってしまいそうな気がする。
たとえ何もできなかったとしても、あの時出かけてなかったら…とか、あのタイミングであの薬を飲ませていれば…とか、エアコンの設定温度に気遣いが足りていなかったかも…とか、全部、後悔してしまいそうだ。
未練がましいったらない。
でも少しでも後悔を減らしたい。
だから思いつく限りは精一杯、対処するのだ。
買ってきたばかりのニトリのひんやりマットの上に寝かせると、そこからコンコンと眠り続けた。
急性膵炎の時もこんな感じだった。
だからまたあの日のように、真夜中に突然やってきて、"ちょーだいちょーだい"をしてくれるかもしれない。
その気配を決して逃すまいと朝までそばにいたけれど、結局そのまま朝になってしまった。
海の日の月曜日。
ソルは起きない。
ほとんど動かないまま夜になった。
動かないソルのそばで、やっぱり私は、思っていたよりもずっとずっと未練がましく、別れが苦手だったことに気づかされた。
もともとこういう性格だから予防線をたくさん張っていたのだ。
「ね、まだ頑張れるんじゃない?カリカリももう注文しちゃったよ。まだ食べたことがない、おいしそうな猫缶も買ったんだよ。食べて欲しいなって思って、いっぱい買ったんだよ。元気になって欲しいってすごく思っているんだよ…」
動かない彼のそばで、別れたくないオバサンは切々とグチグチと、うっとうしく話しかけ続ける。
ソルは目を瞑り、ただじっとしていた。
夜中の3時をまわった頃だった。
気配がした。
ソルが見ている。
「何か食べる?」と聞くと、起き上がった。
ペーストを乗せたスプーンを近づけると、モゾモゾと口を動かし、何口か食べた。
少し目に光が戻ってきた気がした。
4時半をまわって、部屋にうっすら朝日が入り込み始めた頃、彼は再び立ち上がった。
もしこの老猫が人間の男の子だったら、髪の毛をワシャワシャしてクシャクシャにしてやっただろう。
無理言ってゴメン。でも本当にありがとう。
ありがとう、ありがとう。たくさん食べられて偉いねーと褒めちぎる。
ついこの前まで、もっとゆっくり食べろだの、そんなにがっつくならせめて卵でも産めだの言ってたくせに。
でも、良くない?この待遇。焦ってサヨナラしたらもったいないよ。ほれ、もっと食べて食べてとオバサンは勧めるのだった。
ここ数日間は、この1年半の間に起きた何度かの危機的瞬間を、ダイジェスト版にして早送りで見ているみたいだった。
主人公は、呆れるくらい何度も何度も立ち上がるオス猫15才。
ワンパターンな感じすら漂い始めているから、逆にいよいよか…とも思わされている。
幕が閉じるまで、自分が明日も立ち上がることをこれっぽっちも疑わない彼の勇姿を、一瞬も目を離さないで終わりまでちゃんと観るのだ。