年末から、灯油缶に差したオレンジ色の給油ポンプの電池が切れかかっていた。
「入」の方にスイッチをスライドさせても、うんともすんとも言わない。
ノズルごと持ち上げて何度か振り、再び「入」にするとジ〜ッと音がして、ようやく動き始める。
毎回、今日のところはどうか最後まで吸い上げてくれ、そう念じながら、タンクが満タンになってポンプが自動的に止まるのを待つ。
そんな風に騙し騙し使っていたら、年が明けて、気づいたらもう2月だ。
振るだけでこんなに持つとは。電池のポテンシャルを見直すばかりである。
とは言え毎度、振らないことには動いてくれないのだった。
頼むよ、もう夜更けだし、このまま動いてくれよと念じながら思いきりポンプを振ると、果たして動き出すという日々。
ふと、夫も同じことをしているはずだと気がついた。
彼も振っているのだろうか。いや、振っているに違いない。振らないことには動かないのだから。
夫が補充している時に完全に切れてくれ。
オレンジ色の給油ポンプに頼んでみる。
頼んだところで、どうせ私の時に止まるのだろうね、君は。きっとそうだろう。みんなそうだ。みんな私にやってもらいたがる。食器棚の蝶番が外れるのも、トイレのドアのワッシャーが擦り減って開閉が出来なくなるのも、選ばれるのはいつも私だ。
給油ポンプの置き場所は納戸と決まっている。
納戸は寒すぎる。結局その日も最後まで電池がもった。寒くて、取り替え場所や電池のサイズを確認しておく気にもなれない。確かめるのはいよいよ止まってしまった時にしよう。
あるいは、次の機会に「入」スイッチを入れた時、もしかしたら軽快に灯油を吸い込むかもしれない。
そうしたらそれは、夫が取り替えてくれたということになる。
ポンプよ、楽しみだね。次こそお父さんにやってもらうんだよ。
毎回、そう声をかけた。
この前の金曜日も、夜更けにリビングの石油ストーブに給油サインが出た。納戸に渋々向かう。
とうとうピクリとも動かなくなった。今度という今度はいくら振ってもダメだった。
それでようやく電池を交換した。交換口はスイッチの真裏にあった。
ところが、電池を変えてもポンプは動かなかった。
電池を疑い、何本か取り替えて試したものの、動かない。
結局その日は諦めて、別の部屋からファンヒーターを引きずってきて使った。
土曜の朝、夫に給油ポンプが壊れたようだから買いに行くと伝えると、
「ああ、とうとう壊れたか。随分前から接触不良だったからね。」
と言った。
どうして電池が切れたと思わなかったのか聞いたところ、答えが返ってきた。
しかし、テレビの音で聞き取れなかったので、ふーん、そうなんだと言って、静かにリビングのドアを閉め、ホームセンターに向かった。
ホームセンターにはさまざまな給油ポンプが並んでいた。手動のものから高機能な電動のものまであったけれど、前と同じつくりで、少しゴツゴツとしたデザインの、今度は青色の給油ポンプにした。
青色の給油ポンプは、電池を入れるとやる気いっぱいな雰囲気をみなぎらせた。
灯油缶に突っ込んでスイッチを入れると、音を立てて美味しそうに灯油を飲み始めた。
私もビールが飲みたくなった。
オレンジ色のポンプが動かなくなったのは、やる気の問題だったかもしれない。
次はお父さんにやってもらいなさい、などと言ってないで、もっと応援するべきだった。
教訓。切れかけた電池はそこまで持たない。