保育園で。0才さんの4月のお昼寝は、入りはかかるけど上がりは早いという話。

※これはあくまで私の体験談をベースとした話です。保育方法をはじめとする諸々は保育園によって千差万別です。

4月。0才さんたちのお昼寝時間。


それは保育士たちにとって大変スリリングで緊張感が漂う時間である。


生まれて初めて、ママという絶対的な存在から離れたお子さまたちは、はっきり言って大変お怒りで、お困りである。


いくらママがアンパンマン柄のお布団を用意してくれたって、それが夜なべして縫ったものだって関係ない。


大抵は内心こう思ってる。

「こんなところで1人で寝れるか!!」と。

そう、みんなお怒りでお困りで、そうなるのもごもっともなのである。


怒りと不安と恐怖と寂しさと悲しさと、色々な感情が入り乱れるお子様たち(中にはもちろん眠いからグズっているだけ、眠いから、それだけ。というアサヒスーパードライなお子様もいることはいる)。


そんな皆さんを、保育士たちは磨いてきた様々なテクニックを駆使して眠りに誘う。


入園したての4月は、まだ軽いということもあり、立ち抱っこでユラユラするなどの最高のサービスを提供することも多いし、おんぶ紐を用いることもある。


一方で、園によっては最初が肝心と、そうした行為はすべて禁止、入園したその日から全員お布団に横にして、そこから先どんなに泣き叫ぼうとトントンや足マッサージのみ、決して抱っこしないというところもある。


とにかく、園で使用を許されているすべての手札を使って何がなんでも寝かしつけるのだ。


メリットデメリットがあるが、ザッとこんな方法がある。


①王道の立ち抱っこ。
全体、主に膝の屈伸を利用してリズミカルに揺らす。スクワットでも可。


②寝かしてトントン
両手、もしくは片手で、リズムカルにお子さまの両肩あたりを軽くトントンと叩くことを続ける。


③足のマッサージ
片足、両足、ふくらはぎ、もも、足裏のツボなど。お子さまによって寝入る部位は違う。


④耳タッチ
耳の中を軽くコチョコチョする。あくまで軽く。


⑤手揉み
指圧の要領で。手の平を親指などでリズムカルに推していく。


⑥おんぶ
密着するため安心感からよく寝るが着地が難しい。確実に寝たことを第三者に確認してもらうこと。完全に両手が空くのでついつい雑用を張り切りがち。無理はしないこと。


⑦抱っこ紐
包み込まれる感覚を提供できるためお子さまから評判が良いが、両手が空いているのに雑用が思いきりできないので保育士に気持ちの余裕がなくなりがち。おんぶと同じく確実に寝てから下ろさないと振り出しに戻る。


⑧お腹に手を当てる。
お腹に手を当て、お子さまと呼吸を合わせる。寝ろ、寝ろと手のひらから気を入れることを忘れない。


⑨子守唄
退屈なリフレイン、興味を喚起しないような声色が大事。もしくは逆にヘビメタ的なサウンドも眠る場合があるが保育園では使用不可。


⓾添い寝
産休復帰後まもないママ保育士は、寝たフリのつもりが本当に眠ってしまうので、その時は起こさないように周囲のおばちゃん保育士たちは注意すること。あまりにも、高イビキになってしまった場合はそっと鼻をつまむ。


⑪脚を持ち上げて揺らす。
無重力感というのは気持ち良い。それを利用して片脚を床からほんの少しだけ持ち上げ、かすかに揺らしていく。重いのでこの時期だけの特権。


⑫腹を満たす。
ミルクを飲みながら寝落ち、もしくは離乳食を食べながら船を漕ぎ出す状態に至ったら、タイミングを見てそのままお布団に運ぶ。
ゲップや食後のお水ゴックンが出来ないので、特に寝てしばらくの間、まったく目が離せない。目が離せないがコレだと寝かしつけ自体要らない。


⑬催眠術
薄目を開けてじ〜っとお子さまの目を見る。眠いね〜眠いよ〜と、オーラを飛ばす。


⑭耳元で呼吸
言葉どおり、耳元で呼吸音を聞かせて安心してもらう。はたから見たらお子さまに覆い被さる感じになるので、事情を知らない人が見たらギョッとする可能性あり。添い寝スタイルで行う場合もある。


まだまだ様々な方法があるが、残念ながら万人受けする絶対的な方法はない。


お子様1人1人、好みの寝方というものがある。
それはどんな寝方かを探るため、とにかく最初は寝るまで片っ端から試していく。


が、この保育士だとこの方法が1番だが、別の保育士だとこの方法がベストとか、先週まではコレで寝てたのに今日はちっとも寝ない、などは日常茶飯事だ。


お子さまが寝てくれるまで今日も全力を尽くすのみなのである。


しかし、この時期のお子さまたちというのは当然、警戒心MAXであるため非常に眠りが浅い。
寝かしつけに多大な労力が要るのに簡単に目が覚めてしまう。


そのため、全員がようやく、どうにかこうにか、やっとの思いで寝た時の、

「何人(なんびと)も、決して音を立ててはいけない」

という鉄の掟の前に、皆、忙しく立ち働いているのにも関わらず、聞こえるのは子どもの寝息のみである。


今ここで1人でも起きて泣いてしまったら。


その声で全員目が覚めて泣き出してしまったら。


寝てる間に済ませておかなければならない連絡帳の記入も、昼食の片付けも、壁や床拭きも、おもちゃの消毒も、トイレ掃除も、我々のお昼ご飯も休憩も、すべてが出来なくなる。


起こしてはならない。


決して。


と、その時、

「ヒクッ」というかすかな声が聞こえる。
どこから?

誰が行くのか?


行ったらもう1人でやりきるしかない。

責任はとてつもなく重い。

けれど迷っている暇はない。

最も近くにいる保育士が間髪入れずに駆けつけ、トントンと絶妙なリズムで肩の辺りを軽く叩く。


トントントントン…

一定の速度で。同じ強さで。


トントントントン…

お子さまと呼吸を合わせる。


その時、部屋にいる他の保育士は全員、ひたすら勝利することを祈っている。


やがて皆の祈りが通じて、お子さまは再び眠りについた。


寝かしつけに成功した保育士は、ホッと小さく息を漏らす。周りの保育士は目も合わさないが、良くやったと思ってくれているに違いない。やれやれだ。


と、今度は隣の1才さんのお部屋から大音量の泣き声が聞こえて来た。これはマズイ。


案の定、貝が口を開けるようにパチパチとみんなのお目々が開き始めてしまった。

皆、両手を使って2人ずつ、一心不乱に托鉢のように始める。

トントントントン…

トントントントン…


トラくんの目がいっそう光を帯びてパッチリと開いた。絶望的にイキイキとしている。短時間で高性能のバッテリーはどうやらフル充電されてしまったようだ。


完全に覚醒したトラくんは速やかにお部屋から退場だ。大好きなおしゃべりが始まる前に速やかに部屋の外へ。間に合うのか。これで職員はマイナス1名だ。


再び部屋の中は水を打ったような静けさを取り戻した。もはや一刻の猶予もない。昼ごはんを食べに行かなければ。既に時計は2時を過ぎようとしている。


その時。背後から視線を感じる。

??
振り返ると、そう。目を見開いたサトルくんがこちらを見ていた。


「そのまま、そのまま…」


目で圧をかけながらゆっくりと近づく。

サトルくんはニッコリと最高の笑顔で笑いかけてきた。この笑顔が出たら、もう再眠は絶望的だ。


「起きたね。おはよ」


心の中で声をかけ、声を発する前にこれまた速やかに退場。先ほどのトラくんと合流する。


そうこうしているうちに、起こされるでもなく皆、目が開き出す。


4月の0才児さんの午睡も、我々の休憩時間も、大変短いのだった。