保育園で。何が起きても保育士の責任なのは辛いよね、という話。

※これはあくまで私の体験談をベースとした話です。保育方法をはじめとする諸々は保育園によって千差万別です。


保育園。
そこはハプニングが継続的に起きる場所である。

お子さまは日々、成長のために必要な、あらゆる想定外の行動を繰り返す。

その、自分を作り上げる過程において怪我はつきものだ。

貰い事故も多いし、ご家庭ならばこんな怪我はなかった、ということももちろんある。

しかし、
「これも、私のせいなのだろうか…」
と、ボヤきたくなるお子さんの動きというのもある…。


例えば0才のフミヤくん。
彼はまだ「鏡」という物の性質を知らない。

鏡の前に行くと、可愛い男の子(本人)と広い空間が、彼の目の前に確かに存在しているのだ。

だから彼は鏡の世界に向かっていく。
高速ハイハイで鏡に突進、激突する。
今日も明日もあさっても。

その結果、額は赤く腫れ、タンコブとなる。

ちなみに鏡は自己認識のための大切な教材で、もともと壁に備え付けられているため外すことが出来ない。

近づかないように柵をするのもスペース的にムズカしく、また、そもそも、その行動をとるのは10人近いお子さまの中で彼だけ。
また彼にしてもいっときのことだ。


こんなこともある。

スズちゃんは伝い歩きを卒業し、ゆっくりながらも自立して歩き始めたところである。

ハイハイをたっぷりしたお子さまだと、足腰が出来上がっているのかあまり起きないことだが、スズちゃんは早く二足歩行に移行したためか、バランスをとったり踏ん張ったりすることが苦手である。
そのためすぐに転びがちだ。

お部屋の中に、大人であれば
「これ段差?」
というくらいの、畳とフローリングの境界部分にヘリがある。
床材が変わる仕切りの部分だ。
そこにつまずいて転ぶ。
ひどい時は頭を打つ。
床を作り直すことは費用面からも出来ない。
畳スペース全体を仕切り材で囲んでいるので、回避させて遊んでもらうということもスペース的にムズカシイ。
そして、その場所で転んでしまうのはスズちゃんだけだ。
また、スズちゃんにしてもいっときのことだ。


1才のケイちゃんはいつでも舌を出している。
転んだ時に舌を切ってしまいそうで、出しているのに気づけばすぐに、しまうように言う。
しかしまだ理解するのは難しく、ベロンと出てしまう。

ある日、椅子からゴロンと転げ落ちた。
保育園の小さなお子さま用のイスだ。
そこから転げ落ちたところで普通はなんともない。
ただ舌が出ていたので切れて出血してしまった。口の中は、たいした傷でなくても出血量が多い。
慌てた園長が救急車を呼んだ。

舌つながりでもう一つ。
歯が生え始めた赤ちゃんは、ムズムズと痒い感じがしたり、気になるために歯固めを愛用したり、身近なものを口に入れて噛んだりすることがよくある。
その素材は、赤ちゃんによって嗜好が異なる。


ミクちゃんは、食事スペースと遊びスペースの間にある木製のゲートに捕まって立ち上がり、伝い歩きの練習をするようになっていた。

合間に休憩なのか、ゲートに捕まってボケーッとしている時がある。
そういう時に、最高に気持ち良さそうに、ゲートをガジガジとやり始める。

彼女はその場所でそうするのが好きだし、市販品の歯固めの質感が好きではないのだ。
やめてもらう為にガムテープやビニールで覆ってみたが、今度はそれをかじりとり、木面に辿り着こうとする。
天然木材を噛む方がマシなので仕方なくテープ類は剥がした。

もちろん、そこを噛みたがるのはミクちゃんだけで、また、ミクちゃんにしてもいっときのことである。


ある日、たまたまガジガジとやっている時に、上唇の裏にある"上唇舌帯"が切れて、出血してしまった。
上唇舌帯は切れやすく、たまに切る子がいる。
念のため、歯医者に連れて行くことになる。


いずれの場合も保育園でケガをしたのだから保護者には当然、平身低頭、平謝りだ。

そして園長や副園長には、しっかり見守るようにと厳重注意される。

大抵の場合は、再発防止のための始末書や報告書を書くことになる。



でも。こっそりと、思うのだ。
1人1人、つまずく場所はみんな違う。

その子はその子の成長のために、そこでその動きをしているのではないか。

その中で、怪我をすることもある。
怪我をして初めて学べることもあるのではないか。

このくらいは仕方なくない?
今、育ってるところなんだから。

と。