責任はヨコタさんにあると思う、という話。

10年以上乗った我が家の車が、そろそろ

「勘弁してください」

といった様相を呈してきたので、かれこれ1年以上も前に、新車の購入手続きをした。


あれからもう一年。

年が明けてしまった。

待てど暮らせど納品の連絡が来なかったこの一年だった。

タイヤはもう、高速にはとても乗る勇気が持てないくらいに溝がなくなって、ツルツルになってしまった。

それがようやく、

「納車できるかもしれない」と、販売店から連絡が来た。

最短で来月と言われたから、まだまだ安心は出来ない。

が、営業のヨコタさんを信じるしかない。


営業のヨコタさん。

去年、車を見に行った時に我が家の担当になった。

以来、何度か試乗に付き合ってくださったり、購入手続きや納車遅延の連絡をくれたりしている。


目のクリクリとした60代前後の白髪まじりの男性。

お腹は、かなり出ている。

ついでにシャツの裾も、いつも出ている。

なんだか営業マンっぽくない人だ。


だが、この人にはすごい特技がある。

こちらの動きを完全に見切るのである。


立ち上がる時、座る時、モノを持つ時、など、私に限らず、

「ヨイショッ」

とつぶやく人は多い。


「ヨイショッ」

じゃなくても、


「…ぃしょっと。」


くらいは小声で呟く。


そんな人、けっこういます。

ヨコタさんは、それを全て、カンペキなタイミングで先に言ってしまうのだ。


ご想像ください。

例えば立ち上がる時。

自分が、今まさに口から、

「よいしょっ」

と、控えめに呟こうとしたそのタイミングで、60才前後のシャツとおなかが出ているおじさんに、大きな声で、

「ヨイショ〜!」

と言われることを。

一挙手一投足すべて、言おうとしたタイミングで全部先に言われちゃうことを。


すごく消化不良になる。

消化不良だし、ものすごく悔しい。


コレを販売店に行って、試乗するたびにやられた。

ヨコタさんは何でこんなことをするのか。

人の良さそうな雰囲気からして、

「お客様の代わりに言って差し上げよう。」

というような善意からなのが見て取れる。


ヨコタさんは大きな勘違いをしている。

「代わりに言ってもらえてラクで助かる〜!」

などという人はいないと思う。


私は何とかこの悔しさを晴らすために、タイミングをずらすことを思いついた。

座ろうとして、座らない。

エンジンをかけようとして、かけない。


すると、ヨコタさんは、

「ヨイ…」

とか、


「ヨ、あ、…」

となる。


するとこちらは

「勝った!」

という気持ちに包まれる。


そんなことをしているうちに頭の中がヨコタさんとのやり取りでいっぱいになってしまった。

車体の色は、黒だけはイヤだったのに、気づけば黒で注文伝票が出来上がっていた。

「黒でイイ」と確かに言った、と主人は言っていたが記憶にない。

車体の色が、一番イヤだった黒色になってしまったのはヨコタさんのせいだと思っている。