庭木を植え替えたい。
ここ数年来ずっとそう思っている。
我が家は築30年の中古住宅で、庭には建築当時の流行りなのかスタンダードなのか、ツツジや、南天などの純和風な植物がひしめいている。
洋風の素敵な庭を見るにつけ、我が家の庭も爽やかな今風の雰囲気に変えたいという思いが募る。
この一年というもの、庭を眺めるたびに
「どの木から抜こうか…」
と考えるのが癖になっている。
まだ実行には移していない。
真っ先に目をつけたのは、庭の角にあるサザンカだ。
昭和の雰囲気がする(私見です)この庭木をシマトネリコにしたらどうか。
それからキンモクセイ。
数が多過ぎて管理が大変過ぎる。
半分くらいに減らしたら風通しも日当たりもよくなるだろう。
それにハナミズキ。
お隣の屋根にかかるたびに高枝切り鋏を2階の窓から思いきり伸ばして切っている。
この手間がなくなったらどんなに楽になることか。
そして何より、この意味のない雑木。
庭の中心よりやや左側という、本当に意味のない場所に立っている。
意味が分からな過ぎて、一度植木屋さんに聞いたら、鳥の糞に混じって落ちた種が発芽したタダの雑木だ、と言っていた。
常緑樹で、花を咲かせているところを見たことがない。
で、とにかくここ数年、ろくに手入れもせずにただただ、
「どの木から抜こうか」
という視点で、庭の木を見続けてきたのだった。
うすうすは気づいていた。サザンカの変化を。
サザンカの木の隣には、簡単な網のフェンスだけを挟み、お隣のお宅のサザンカの木が立っている。
その木に、今年もサザンカの花がそれは見事に咲きこぼれている。
対して、その隣に立つ我が家のサザンカの木。
間には腰高のフェンスがあるだけ、隣家も一切世話をしていないにも関わらず、一輪も花をつけなかった。
一輪も花を咲かせないその木の下には、隣のサザンカの赤い花びらが積もっている。
ーイインデス。ドウセヌカレルウンメイデスカラ。
キンモクセイに関しては、昨年の秋、反対側のお隣に住むタカノさんが、
「この時期は寝室を開けるとキンモクセイの香りが入ってきて幸せになるの。キンモクセイは切らないでね」
ハナミズキの方は、ちょうど長く伸びた枝を切っている時に、サザンカの家のお宅の奥さんが、
「少しくらい屋根にかかるのなんて気にしないで。新緑の季節の葉っぱはやっぱりキレイだもの。」
ーお二人は「言った」のか「言わされた」のか。
それから意味のない雑木。
去年の春先、その木に数百匹の蜂が群がった。
羽音が凄まじく、ご近所から、
「お宅の庭が大変なことになっているので何とかしてくれ」
と電話が入った。
確かに見るも恐ろしい状態になっていた。
窓をほんの少しだけ開け、その隙間から高枝切り鋏を伸ばし、蜂が群がる中、雑木の枝を全て切り落とし、マルハダカにした。
それで蜂はいなくなった。
私は満足した。
数百匹もの蜂が群がるその現象は、「分蜂」と言って、新しい女王蜂が生まれると、その母親の女王蜂がもともとの巣を娘に譲り、働き蜂の半数を連れて新しい家を探して引っ越す、その引っ越しの最中の休憩場として、手頃な木に蜂が群がることで生じるのだった。
その時の蜂はとても穏やかで、危害を加えることはまずなく、数日間見守っていれば良いし、このことはミツバチを守るためにとても大切なことである、ということを知ったのは、マルハダカにしてからだった。
ーセッカク、ハエアルキュウケイバショにエラバレタノニ。
今は、マルハダカの状態から猛烈な勢いで枝を再生し、それでもまだ葉が少ないので止まり易いのか、たくさんのメジロが来て賑わっている。
ーイミガナイザツボク?オロカモノメ。
色々と妙な考えが浮かんできて、庭木の植え替えが全くはかどらないのだった。