家からそう遠くない場所に有名私立小学校がある。
雨の日ともなれば、その学校に通う"やんごとないお子さまたち"をお守りするために、壮年の、凛々しい制服姿の男性警備員が何人も現れる。
そうして、信号のある横断歩道や、綺麗に整備された歩道のある通学路のそこかしこに立って、お子さまたちを事故のないように見守り誘導する。
そのような警備の必要性をまるで感じないくらい、お子さまたちは、時にご学友と談笑しながらサザナミのように静かに下校している。
その小学校が出来て以来、駅までの道のりにある歩行者信号が青い時間が少し長くなったような気がしている。
やがて家の近くまで来ると、こちらの小学校も下校時刻だったりする。
信号のない横断歩道や、歩道のない通学路を、傘を振り回しながら歩く小学生たち。
歩行者天国と勘違いしているかのような盛り上がりぶりだ。
数年前まで我が子もその中にいた。
警備員はむしろコチラの子どもたちに必要だ、と思いつつ歩いていると、1人の少年の長靴が足からスポンと抜けてしまった。
隣を歩いていた子がそれを拾い、遠くに放り投げた。
と、その時。
少年たちのヒソヒソ声。
「やばっ。クスノキだ!逃げろ!!」
少年たちの見ている方角に目を向けると、「パトロール」とデカデカとプリントされた黄色いベストを着て猛然とコチラに向かってくるクスノキ会長が見えた。
町内会の役員決めに参加した話。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。
「コラ!ここは公園じゃないぞ!何やってる!!」
年末に救急車で運ばれたとは思えないほど威勢の良い怒鳴り声だった。
「傘を振り回すんじゃないっ!危ないだろう!!さっさとまっすぐ帰れ!」
気持ちが良いくらい叱りつけてくれた。
ムスコが小学生の頃、クスノキさんに叱られた話をよくしていたが、初めて現場を目の当たりにした。
こんな風に叱ってくれていたのか。
「クスノキはうるさいけど、草むしり手伝うとサイダー奢ってくれるんだ!」
そう言ってよく公園に遊びに行っていた。
そのたびに私は、
「クスノキさん、さんを忘れるな。お礼はちゃんと言え。頂いた時は報告を必ずしろ。」
などとマナーのことばかり気にしていたけれど、
叱ってもらえることへの感謝が足りていなかったと反省した。
クスノキ会長が町内会長を引退してしまったら、誰がこのヤンチャな子どもたちの安全を守ってくれるのだろうか。
警備員さんはタダでは来てくれない。
そう思った瞬間、案の定、チビデブおばさんが頭の中に登場したのだった。
チビデブおばさんの侵略。 - onoesanと猫と保育となんやかんや。
「アタシがやるわよ。」
とでも言いたいのだろう。
大丈夫。会長は荷が重いかもしれないが、今日の様子ならまだまだパトロールは現役で頑張ってくれそうである。
でも。
たとえチビデブおばさんの侵略を食い止めることに成功しても、あのような場面に出くわしたら、次はワタシもキチンと叱りつけてやろう、と思ったのだった。