保育園で。年度終わりの1日。

※これはあくまで私の体験談をベースとした話です。保育方法をはじめとする諸々は保育園によって千差万別です。


3月31日の保育園は、バタついている。


幼稚園と違って春休みという猶予期間がないため、早替わりの舞台裏のように大わらわな1日となる。


勤めている保育園では、例年、最終日のお昼ご飯から次の学年のお部屋での生活をスタートさせる。


それに先んじて、職員は朝から4月以降に受け持つクラスの保育に入る。
4月配属の先生はまだいないが、この日は家庭保育に協力してくださるご家庭もあるため、例年大体ちょうど良いバランスとなる。


その他の、新入園クラスの担当になった職員や離任する職員が、裏方となってお部屋の大移動のための準備をする。


お子さまたちが外遊びに出かけるやいなや、よ〜いどん!で、ロッカーや靴箱、タオル掛けなどのお名前シールを剥がしまくり、新しいお部屋に貼りまくり、お布団に通園バッグ、タオルや着替えなどを運びまくり、まるで、最初からここにいたでしょ?と言わんばかりに、前のお部屋で馴染んだオモチャや絵本を並べ、しつらえる。


そうして外遊びからお部屋に戻る際に、新しい部屋の方にご案内し、そこから完全に新しい部屋での生活がスタートするという運びである。


できるだけ不安感を与えないように、進級が負担にならないように配慮しても、やはりどうしても新しい先生がそこにいるだけで泣いてしまうお子さまは、必ずいる。


ただしこれは0、1才さんクラスが進級する時の話で、2才さん以降のクラスの進級ともなれば、こうした問題はほとんど起こらない。


3才からは縦割り保育となるため、一人一人のお子さまに担当する年長のお兄さんお姉さんが決まっており、手取り足取り優しくお世話をしてくれる。


お子さまたちはモジモジしながらも、いつもとても嬉しそうなのだった。



だから悲壮感漂う泣き声が聞こえるのは1才さんと2才さんのお部屋からで、泣き声が聞こえてくると裏方担当の職員たちは気もそぞろとなってしまうのだった。


今回、2年受け持ったクラスを外れることになったリサ先生と私は、空いている部屋で、新入園児さんのお名前シールを作ったり、メダカや金魚を出して水槽のお掃除をしたり、書類を片付けたり…と、やることは一向になくならず、セカセカと動き回っていた。


その間も、スーちゃんとタカちゃんの甲高い泣き声だけは一向に止む気配がない。


お子様を前にしていたら感傷に浸る間もないが、我々がしているのは雑用である。


気になって仕方がない。


とは言え、しゃしゃり出てもご迷惑なだけである。


あとは新しい担任の先生たちにお任せするしかないのだった。


そう思いつつ、ついつい扉越しにのぞいたりする。


普段、泣いているお子さまと離れがたくて、なかなか出発しないパパやママたちに、


「大丈夫ですよ!いってらっしゃい!!」


などと、背中を叩きそうな勢いで声をかけているのに、情けなくもこの始末である。


お互いに苦笑しつつ作業をしていると、扉がスッと開いた。


入ってきたのは、新しい先生に抱っこされたスーちゃんとタカちゃん。


「すみません、今日は他のお子さんもまだ慣れていませんし、ちょっとどうにも泣き止みそうもないので……お願いします!!」


そう言って2人を置いて、新しい先生は出て行ったのだった。


リサ先生は既に我慢できず満面の笑み。


口では、


「スーちゃんもタカちゃんも、先生を困らせたらダメでしょ!」


などと言っているが、笑顔が抑えられない。


私も、2人がただ一緒の空間にいてくれるだけで幸せを噛み締めてしまうのだった。


2年間もべったりと一緒にいたのが、今日を境にサヨウナラしなければならないのだ。


当たり前に毎日見ていた寝顔も、もう二度と見られない。


いずれこの日が来ることを毎日思いながら保育しているけれど、やっぱり最後の日は辛い。


2人は今日、大泣きしたけれど、あっという間に新しい環境に慣れて、あっという間に私たちのことを忘れることもわかっている。


だから今日、2人が泣いたおかげで一緒にいる時間をもらえたことは、離れる我々にとって2人からのスペシャルプレゼントなのだった。