昨日一時預かりとなった老猫ソルは、確定診断はまだだけれど、おそらく慢性膵炎だったのが突如として凶暴な顔つきの急性膵炎になって、あのヨボヨボな体を襲ったのではないかということであった。
胃腸は1ミリも動きがない、だから相当苦しいであろうとの見立てで、家に帰しても何も食べられなくて気持ちが悪くて辛いだけだから、入院してお薬と静脈注射、あと点滴ですね…という話だった。
静かに優しく衰弱していくというのであれば考えるところだったけれど、このままでは本人は、顔には出さないタチだけれどとてつもなく気持ちが悪いはずと言われれば、二日酔いの気持ちの悪さを思い出すことができる私とすれば、一も二もなく入院させるよりほかないのであった。
そうして家に帰り、難病持ちの老猫にして小学3年生男子並みの存在感を放つソルの不在にボーッとする。
ボーッとしていると、これはもう本当に久しぶりに、突然ピカッと頭の中で閃きがあり、おそらくはじめて主人より先に大事なことに気がついたのだった。
もしかして先週、結婚20周年だったんじゃない?
私の方が先に気がついた嬉しさでドキドキとし、いつ主人にそれを言い、あー気づかなかったんだね…いいよ!と許す感じを味わうか、想像しただけでワクワクとするのだった。
というのも私は日にちを覚えるのがとても苦手で、入籍した日も結婚式を挙げた日も覚えていない。
自分と家族の誕生日はさんざん書類とかに書き込むので覚えることができた。
付き合った彼の誕生日はもちろんのこと、友達の誕生日も覚えているのはたった1人で、それすら正直なところクリスマスイブだったかクリスマス当日だったか今だに覚えられない。
だから曖昧な時間にさもどちらでも受け取れる感じにおめでとうのメッセージを送る。
この前送った時にはとうとう、友だちの感謝の言葉に申し訳なさがピークに達してしまい、実はクリスマスイブかクリスマスか覚えていないと白状すると、別にどっちでもいいと言われた。それで結局のところ、誕生日がどちらなのかやっぱりわからないままなのだった。
そうした人間なので、この快挙には興奮した。
それで先ほど、
「ねえ、気づいてた?今年20年なんだけど。」
と、勿体ぶって言ってみた。案の定、
「何が?」
というので、しめしめである。それを言ってくれたら、私はいよいよ生まれて初めて、ひど〜いなどと返すことができる。
で、
「ほんとに覚えてないの?結婚して20年、メモリアルイヤーだよ!」
と堂々と言ってやった。まあ先週だけどね。
「ああ、そう言えばそうだね。」
やった!勝った!お母さん、私とうとうやりました!
「まあ私も過ぎてから気がついたんだから偉そうなことは言えないよ。それに今年いっぱいはメモリアルイヤーなのに変わりはないから。」
「…」
「ね。」
「…」
入籍したのは確か4月の真ん中あたり、だから先週あたり…のはず…じゃないのか?
返事がないので少しずつソワソワとした気分になってきてしまい、とうとう聞いてみる。
「結婚記念日がね。先週のね…」
主人は無表情で正解の結婚記念日を教えてくれた。7月であった。7月を"しちがつ"と呼んだ場合、4月と7月は似過ぎている。
日にちを覚えることに関して誰かに優越しようなどというのは100年早かったと反省したのだった。