老猫と比べたらいけないけれど、実際似ているのだった。

家に着き、玄関に向かうアプローチを歩いていると、騒々しい足音が向かってくるのが聞こえる。


ドタドタドタと、男の子のような。


猫ってさ、そんなに音を立てて歩かないものだと思っていたよ。


実際、15年間いっしょに暮らしてきたルナの足音なんて聞いたこともない。


玄関を開けると、もうこの体勢で待っている。

まったく。おねだりする時は可愛い。


あんたさ、病院で先生に、あとはもう見守るしかありませんって言われてからまだ半月だよ?何考えてんの?


ブツブツ文句を言う私の目をじっと見つめながら廊下を並んで歩く。


キッチンまで来ると、おっかぁ!おっかぁ!(ハラヘッタ!)と騒ぎまくる。


この声で、うっかり振り返って目が合ってしまったら最後、すかさずまた拝まれる。


おっかぁ!おっかぁ!から、ほんぎゃぁ〜!ほんぎゃぁ〜!に変わる頃、耐えられなくなって猫缶の準備を始める。


皿を出したらようやく静寂が訪れる。


やっと静かになった…。


昨日、何度もおかわりを要求した猫缶は既に飽きたらしい。
ウッという顔になって口をつけない。


シーバも早くも飽きた。


高級猫缶すら、少し飽きてきた。


さあ食べるものが何もない。これ何度目?


やっと落ち着いてきたかな…と安堵したタイミングで、あ、もうコレ2度と食べないからとそっぽを向くのだった。


手を替え品を替え、アレコレ工夫し、離乳食のようにすりおろしたり刻んだり蒸したり。


フードは一体何種類試しただろうか。


もう食べないなら勝手にしろと放っておくと、おかーさん、オシッコが出ないよ(尿路閉塞)とか、目が痒いよ(角膜潰瘍)とか、あれ?キモチがワルイよ、ゲロゲロ(急性膵炎)とか、必ず、放っておけない事態になる。


なんか…。


比べたら申し訳ないんだけど。


でもつい思ってしまう。


保育園の男の子たちより手がかかるって。


正直に告白すると、一年半前にソルがやってきてからずっと、似ている…と思わずにいられなかった。


猫にヨソのお子さまを連想するなんて失礼なのはわかっているが、でももう本当にそうなのだ。


ルナとソルの手がかかる度合いの差って、保育園の男の子と女の子とほんっと同じだ(主観です)。


もちろん個人差の方が大きい。
今の時代にこういうことは言ってはいけないのかもしれない。


でも、(あくまで全般的な話、というか実感として)男の子の方が病気多めなのは例年の出席率が示すとおりだし、声がデカいところとか、無茶してすぐケガして大泣きするところとか、甘えん坊で、見て見てずっとボクだけを見てて…と激しく訴えてくるところなんか、どうしても連想してしまう。


存在感がやたらあって、いつでも真ん中にいるくせに怖がりで、知らない人が来るといつのまにか隠れてブルブル震えている。(ルナは隠れたことがない。)


男の子は可愛いけれど大変。


あーもう。


アンタそうやってヒトの日常さんざんかき混ぜといてさ、いつか本当に死んじゃうんでしょ。もう勘弁してよね何なの一体…。


嘔吐やら下痢やらを何度も処理しながら、これからはちゃんとトイレでしようね、とか、ゆっくり食べてねとか、色々注文をつけまくる私の顔を神妙な面持ちでじっと見つめている。


こっち、めっちゃ見てるけど、今なんにも聞いてないよね。


そこが一番、似ている。