甥の結婚式。

週末、甥っ子の結婚式に参列した。

久しぶりに会った彼は、20代半ばにも関わらず、すっかり落ち着いていて"冷静沈着"という四字熟語がぴったりな雰囲気になっていた。

仕事柄、というのもあってか、ぼちぼち規模の大きな、やる気いっぱいの式であった。

それにもかかわらず参列する親族の女たち、すなわち我々は、やる気がないわけではないのだけれど、揃いも揃ってまるで化粧っ気のない中高年ばかり。
着慣れないドレスや着物、履き慣れないヒールや足袋に苦戦しながら、ヨチヨチ、おずおずと豪華な式場に足を踏み入れたのだった。

メイクをしてオバケのQ太郎のようになると、お互いの中身を知っているだけにハロウィンの仮装行列に参加しているような気分になった。

ーオトコはラクでいいなあ。

しかし、こんなキテレツな中高年女性ばかりが目立つ段階では、たとえ式場がどんなに頑張っていようと、とてもじゃないがこれからウェディングパーティーが始まる予感はどこにもしない。

せいぜい変わった祭り、頑張っても喜寿のお祝いやお宮参りに、大袈裟な親族がたくさん集まってしまったような雰囲気であった。

…それがどうだろう。

挙式の時間が近づき、20代の未婚女性たちが式場に流れ込んでくると、ものの見事に会場の空気が一変したのだった。

仮装大会のゴテゴテとした空気は隅の方に追いやられ、目の前は鮮やかに、キラキラでフワフワとした景色に塗り替えられた。

その圧倒的な空気の変化を待っていたかのように、教科書に載りそうな完璧な挙式と披露宴が始まったのだった。

花嫁と父親がバージンロードをゆっくりと進む。

花婿は、花嫁が手の届く範囲まで来ると、伸ばした腕に少し力を入れて花嫁を自分の方に引き寄せた。
それを合図に花嫁は、父と組んでいた腕を離した。

父親は、娘の腕から伝わってきた花婿の力の入れ具合が思いのほか強かったことに、一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに自分を納得させるように、うんうんと頷いて腕を引く。
それから「あ、そうだコレもだった」と、花婿の手に花嫁のグローブを乗せた。
「はい、これもね。これも(どうせ)持ってくんだろ。」
そんな手つきだった。

役目を終えた父親は、少しの間、その場に佇んで視線を宙に泳がせた。

それから、ああ、これでもう自分の出番は終わりだったと、思い出したようにゆっくり踵を返したのだった。

一連の流れで見せたお父さんの表情が素晴らしくて、助演男優賞は新婦のお父さんに決まった。

披露宴は、最初から最後まで若い2人のしっかりとした人柄が感じられ、その年頃だった頃の自分との激しい落差にめまいがしそうだった。

前途洋々で、若くて、でも既にしっかりと地に足がついている。
その素晴らしさに圧倒されてしまった。

あのキラキラと光彩を放つ真ん中あたりのテーブル席に自分の席があった頃は、いつか自分がこんな風に考える日が来るなんて思ってもみなかった。
惜しみなく使える時間と体力がふんだんにあったあの頃が少し懐かしい。

そんなことを考えながら、老猫の待つ家に急いで帰宅した。
早朝から夜までの外出の間中、小さな子を置いてきてしまったようで気になって仕方なかった。

玄関を開けると予想どおりの惨状で、帰宅した瞬間から拭き掃除を始めたのだった。

嘔吐と下痢で汚れた家の中を目の当たりにした時は、さんざんきらびやかな空気にあてられてきたので、自分の現実から思わず目を背けたくなってしまった。

けれど拭き掃除を終えて、安心した2匹が水をゴクゴクと飲む。それから自分もビールを開けてゴクゴクと飲む。

すると、ああ、これはこれでまあまあ幸せだなという気持ちが不思議なほどムクムクと湧き上がってきたのだった。

そうか。今日は、言うならば2人の幸せを満喫する会。あてられて当然なのだった。あてられた参列者は酒でも飲むしかないという会なのに車で帰るから飲めなかった。

あんなに冷えて美味しそうな瓶ビール、しかも開栓してるやつが目の前にあるのに飲めなかったのだから、あてられて当然だ。

猫の無事を確認してから一杯飲むと、あとはもう、ただただ甥っ子たちの幸せが嬉しいだけになったのだった。