子離れしたんじゃなかったの。

40代になってからできた一人息子のことを主人は溺愛している。


その姿を見て、娘じゃなくて本当に良かった…と何度も胸を撫で下ろしている。


主人にとって息子は小さな弟子であり、1番大事な宝物であり、多分、自分の分身のように思っていたと思う。


小さな頃は一緒にお風呂に入り、ベッドで読み聞かせをした後、毎晩のようにツーショット写真を撮っていた。


小学生になり、息子がメッセージや写真を受信できる携帯を持つようになると、その携帯に主人から頻繁に連絡が入るようになった。


「今朝、電車から見えた景色を送ります。」


といった内容のメッセージと共に、三日月や満月、夕焼け、橋や川などの風景写真が添付されている。


恋人に送るようなそうしたメッセージの数々が、私の携帯に送られてきたことはもちろん一度もない。


コロナ前には息子と2人でサッカー観戦に行くことを楽しみにしており、主人のおこづかいはそのデート代にほとんど消えていった。


そんな一途な主人を、息子は従順に受け入れていた。


ー小学校の高学年まで。


とても円満に見えていたので、てっきりこのまま仲の良い父子という関係性で大人までいくのではないかと思っていた。


ところが現実は甘くない。少年は大人への階段を登り始めるのと同時に、父親の愛を重く感じ始めた。


中学生になると、息子は教科書どおりに自分の世界を持った。


年の離れた親がうっとうしい。


2人の間がギスギスし始めた。


そしてそんな折、それまで父子で寝ていた部屋から、息子が1人部屋に移った。


私は主人のことが少し心配だった。


しかし主人は、案外早く1人部屋を楽しむようになったのだった。


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そして、先日。


主人が1人で旅行に行く計画を立てた。
(介護猫がいるので、私は常に論外である。)


息子を誘うことすらしなかった。


どうやら見事に子離れを成功させたらしい。なかなか鮮やかで、意外ではあったけれど心の中で拍手したのだった。


しかしその数日後。


息子がクラブチームの2泊3日の合宿に出発した。


私は完全に浮かれていた。


平常時の彼は、お弁当と朝夕食に加えて、軽食に補食、それに夜食などを必要とすることも多い。


チームから保護者に向けて、栄養管理の大事さをパワポYouTube動画などを使って頻繁に指導される。そして息子は食が細い。


卵焼きに味がなかったとか、茶色いオカズしかなかったなどと言われながら、多い日で計5回、食べる時間を確認しながら、なんとか作っているけれど、料理上手ではまったくないのでかなり苦痛。


だから正直に言えば、元気で楽しんでいるなら夏休み中ずっと合宿ならありがたいのにな…と思っていた。


私と違って浮かれることはないにせよ、子離れしたはずの主人も変わりなく過ごすだろうと思っていた。


ところが去年と全く変わっていない。


早朝からGPSで現在地を確認する。移動を始めただの、なぜこんな時間に宿舎にいるのか、病気ではないのだろうか…だのと、ストーカーのように追跡しては結果を報告してくる。


なぜウチに連絡を入れないのか、時々ラインくらい入れろと連絡してみてはどうか…などと、留守を謳歌している私に何度も聞いてくる。確認のためにもう一度書くと2泊3日だ。


きりがないので放っておいたら、そのうち自分で息子にLINEした。


それが既読スルーされ、また何かあったのではないかと心配している。


仕事はしているのだろうか……主人の方がよほど心配なのだった。


着信を何度も確かめる姿に、1日遅れで返信が来て泣きそうになっている姿に、女の子じゃなくて良かった…と改めて思う。


それと同時に、反抗期が終わったら、またお父さんに優しくしてあげて欲しい、どんなに愛してもらったか、そのありがたさがちゃんとわかる人に成長して欲しい、と切に思うのだった。