老猫の仕事

雌の老猫は働いている。


そう言ってしまっても良いかもしれない。


日に1回、休みの日には多くて3回、1日の中で考えたらごく短い時間ではある。


短い時間であるが、主人の腕の中に有無を言わさず入れられている。


腕の中にいる時は、仕事だと割り切っているフシがある。


大人しく丸まり、ジッと耐えている。


ヒゲヅラでスリスリされても、ギュッと抱きしめられても、目は一点を凝視し、ぬいぐるみのように動かない。


同じ猫でも雄の老猫、ソルの方は、短毛で痩せている上、お子さま気質で我慢が効かない。


主人が抱くとウナギのようにスルリと逃げてしまう。


抱き心地も、長毛で丸い雌猫、ルナの方が圧倒的に良い。


中身は完璧に液体、スライムのようなタルタルな柔らかさ。


表面は触れるだけでオキシトシンが分泌されてしまうフワフワの毛。


そこにクリクリとした目や、まんまるのマズルがついている。


リモートの日は更に頻度が増えるから、疲れが見てとれる。


しかし現在、主人の精神面のケアは彼女が1人で担っている。何とか頑張ってもらうしかない。


ひとたび腕の中から解放されると、フサフサの尻尾をこれでもかというくらいに激しく振る。


不愉快このうえなかったと、大袈裟な程ユサユサさせて、こちらにノシノシと向かってくる。


その道すがら、ソルがクーカクーカと寝ていたりでもすれば、確実に、寝ているソルの顔に不意打ちを1発食らわせる。


アタシの通る道で寝てんじゃないわよ、フン!


すべてに当たり散らしたい。イライラはピークに達している。


私のところにたどり着くと、キッとした表情で睨む。


あんた、さっきの見てたでしょ。


あたしが働いてるとこ、あんた、そこで高みの見物してたでしょ。


疲れたからサッサと何か出しなさいよ。


ゴハンを目力だけで要求する。


出されたゴハンをさんざん食べ散らかし、最後に水皿に前脚を突っ込んで、あたり一面を水浸しにしたら、定位置に戻って丁寧に顔を洗う。


そんな彼女に主人は、


「また抱っこしてあげるからな」


と、満足した様子で遠くから声をかける。


すると、やっと大人しくなった尻尾をまたブンブンと振る。そちらを見ようともしない。


時間をかけて丁寧に体を舐め清めると、おもむろにトイレに向かう。


ルナに膀胱結石が見つかってから、トイレをひとつ増やした。


毎日、すべてのトイレを満遍なく使う。


どのトイレに行ってやろう。


トイレが済むと、ヘンゼルのように、ボロボロと猫砂をばら撒きながら戻ってくる。


あんた、あと、片付けときなさいよ。


そうして目を瞑る。


今日もおつかれさま。