線香花火で幕を閉じた。

今住んでいる家に引っ越してきたのは、息子が3才の時だ。


以来、夏が来ると毎年、近所に住むテッちゃんのパパが、花火をやろうと広いご自宅の庭に誘ってくれるようになった。


誘っていただいた近所に住む3家族は、大量の花火、缶ビールや乾き物などを買い込んでお邪魔するのが、気づけばすっかり年中行事となっていった。


子供達は毎年大喜びで、大量に用意したはずの花火はあっという間になくなったし、花火が終わってしまってからも遊びに夢中でなかなか帰りたがらない。


お酒が入った大人たちも、その日だけは子供達の多少の夜更かしに目を瞑っていた。


コロナ禍の間は花火だけになったものの、毎年欠かさず行われたのだった。


異変が起きたのは去年のことだ。


久しぶりにビールやジュースを飲んだりしようと、テッちゃんのパパは張り切って、テーブルや椅子を用意してくれたし、たくさんの花火も買っておいてくれてあった。


けれど、ひと家族が不参加だった。


あんなに花火が好きな子達が、一体どうしたんだろうね。


理由は特に言ってなかったらしい。


まあ、でもとにかく花火、やろう。


例年、子供達が一斉に花火に押しかけて、取り合いになるので、あらかじめ袋から出してバラバラにして台に乗せておく。


ロウソクも準備して、さあ、いいよ!と子供達に声をかける。それから大人たちは飲み始める。


いつもそうしていたから、去年もそうしたのだった。


しかし、しばらくしてふと見ると、花火が全然減っていない。


子供達の方に目を向けると、女の子たちは花火には見向きもせず、おしゃべりに夢中。


男の子たちも、大物の仕掛け花火をやるだけやったらそれで満足してしまったらしく、カードゲームで遊び始めている。


テッちゃんのパパが準備してくれた、ロウソクを立てるためのレンガや、花火の始末のためのバケツやジョウロの周りがしんとしてしまっている。


これはマズイ…と勧めてみても、全然やろうとしない。


「せっかく準備してくださったんだから…」と、小声で言うと、渋々手を出す有り様である。


このままでは開封してしまった花火が終わらない。


大人たちは飲み物を置いて、皆で花火をやり始めた。


一向に減らないので、こっそりと数本束ねてやったりもした。


そうして頑張って消費して、ようやく締めの線香花火に辿り着いたのだった。


線香花火、数十本か…。


しかし線香花火が始まると、不思議と子供達も一緒にやり始めた。


大人も子供も皆静かに、それぞれの場所で、小さな火花がやがてポトリと落ちるところをじっと見守っている。


なんとなく、これが最後の集まりだと大人たちが認めた瞬間だった。


誰彼ともなく、


「うっかりしてたね…この子たちもう、みんな中学生だよ」


「コロナのせいもあったよね」


「子供達の成長に少し鈍感になっていたかも…」


「毎年当たり前にやってたからねえ…」


「10年以上も経ったなんてね…」


そんなことを言い合ううちに最後の線香花火がポトンと落ちた。


テッちゃんのパパは何も言わず、静かに後片付けを始めた。


その背中に、手伝おうと駆け寄ったテッちゃんの姿を見て初めて、2人の背も肩幅もそう変わらないことに気がついた。


みんなそろって、本当に、相当うっかりしていたのだった。