リビングのドアは、ほんの少しの隙間があれば、前脚を引っ掛けて内側から開けたり、押して外から入ってこれたりと自在に開け閉めができる。
そのくせ、2階のドアは仕様が逆というだけで、スキマがあっても自分で出入りできず、ドアの前で固まっている。
ジャンプしてドアノブを下げることができる(しかも後ろ脚で立ち上がり、前脚を合わせて拝むプチ芸すら持つ)同い年のソルと比較すると、圧倒的に分の悪い老猫、ルナ。箱入りバアサン。15才。
しかし彼女には類い稀なる能力がある。
この2年近く、ソルのおかげで彼女の食事は混乱を極めている。
ソルの病気と嗜好性の問題に巻き込まれ、何十種類ものフードに加えて手作りごはんまで、それはもうコロコロと食事内容が変わっている。
大概はソルのお残しの後始末。だからその日によって量もかなり変わる。
それにも関わらず、この2年の間というもの、月に一度計る彼女の体重はまったく変わらない。4.5kg。
5kgの大台には決して乗せない。あくまで4.5〜5kg未満をキープしている。
大台には乗りたくない。49キロと50キロの差は、50キロと51キロの差とまったく違う。口に出したら違いがより鮮明だ。3900円と4000円くらい違う。聞こえも悪い。
それでも、こんなに乗りたくないと思っていても、いとも簡単に乗っかってしまう。それが大台。
一体どうやって体重をコントロールしているのだろう。乱高下を繰り返すソルの体重とはえらい違いである。
まだまだ、紐を渡せばムキになって遊ぶソルとは違い、ムダな動きは一切しない。
ゴハンの音が聞こえると、バンビのように軽やかに駆けてくるソルとは反対に、のしのしと、大物の風情を漂わせながらゆっくり来るから、到着する頃には大抵ソルは食べ終わっている。
残りゴハンを、あまり動かないおばあちゃんが、それこそ食べたいだけ、どこからどう見ても、テキトーに食べている。
私はこんなにカロリーを気にしながら食べているのに。
どうしてそんな能力を身につけたんだろう。隠し事などひとつもない仲なのだから是非とも秘訣を教えて欲しい。
これからも彼女を観察していけたら、と思っている。