サイレント・チビデブおばさん。

しばらく書くことをサボっていたから、あの日から既に半月以上が経っている。


酷暑には絶対いなくなると思って放っておいた。


今年の正月明けに突然現れた、私の中の私。ちびデブおばさん。

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梅雨が明けても体内にしぶとく居座り、のさばり続けた。


夏の間、え?スカートが脱げない…とか、今ビリッて音がした…、あれ?穴が開いた…ということは、けっこうあった。


でも、そのうちいなくなるだろうと思っていた。なんたって暑いもの。チビデブおばさんは夏の暑さと共に消滅する、そう信じていた。


そんな呑気な本体を尻目に、彼女は沈黙を保ち、虎視眈々とタイミングを見計らっていたのだった。


そして、オセロを一気にひっくり返す勢いで、実に残忍な手口でとどめを刺しにきた。


ひさしぶりに体重計に乗った時のこと。


そこには信じられない数値が表示されており、その瞬間、世界から音が消えた。


足の力が抜け、その場にうずくまった。


壊れている、絶対に壊れている。


何か…何か計るもの…と、たまたまそばにあった詰め替え用の柔軟剤700mlを、震える手で掴んだ。


それを体重計に乗せてみようとして、やめた。


怖い。


怖くて乗せられない。だってきっと壊れてない。


四つん這いになったまま、しばしボーゼンとした。


自分の体が確実に、ゆっくりと支配されつつある。


これまで体験したことのない異変が起きている。


ヨロヨロと力なく立ち上がる。


痩せなければ。


レッドゾーンをはるかに超えている。


こんな体になっちゃって。


翌日の早朝。


駅まで車で主人を送ると、出勤途中のサラリーマン男性が何人も歩いていた。


ついついお腹を見てしまう。


仲間がたくさんいた。


中高年男性は、基本的にチュニックスカートを着ることができない。


すべてをさらけ出して歩いている。


私は自分のズルさを思った。


お腹もお尻も隠している。


ズルかった。自分は隠しておきながらオジサンたちのお腹を品定めするなんて。卑怯このうえない。


夏のスーツ姿はウソがつけない。


臨月かというほどに出てしまったお腹をさらけだすのは、重く、情けなく、悲しいかもしれない。


でも一度ポコリと出来てしまったら、ラクダのコブのように脂肪分をよく溜め込み、よほどのことがない限り取れないのだ。


私だってそういう状態になっているのに、こんなのフェアじゃないだろう。


同じ土俵で勝負しなければ。そして見事一抜けしなければ。


オジサンたちはなぜか恥ずかしそうにしていない。


あれはおそらく、目が慣れてきてしまったのではなかろうか。


そうであれば、私にしたところで、うかうかしていると目が慣れてしまうかもしれない。


そうしてそのうち、「あっはっは!!健康なら良いのよう!」などと、言ってしまうかもしれない。


先々そんな風に笑い飛ばせる人になるのは素敵かもしれないけれど今はまだダメだ。急がなければ。


そんなわけで先月の中旬辺りから毎日1万歩、最優先事項として必ず歩くようにしている。


今のところ、体重計はピクリとも動かない。


20年前、うっかり挑戦してしまったマウイ島でのフルマラソン。あの、たくさん走り込んで最も軽かった時よりも7キロ太っている。


身長160センチ未満の7キロ増量は、高身長の人の7キロ増量と違って隠し場所が全然ない。


ひさしぶりに歩いて、体がきしんで悲鳴を上げている。けれど続ける以外に道はない。


そうしてちびデブおばさんと、正面から向かい合って、半月あまりが経とうとしている。


絶対に負けられない戦いが、こんなとこにもあるのだった。