酷暑の夏。
エアコンの効いた室内で漫画ばかり読み呆けていた私に、チビデブおばさんがお灸を据えにやって来た。
身の危険を感じて、それ以来、とりあえず毎日10000万歩以上は必ず歩いている。
読書(漫画)三昧だった生活を考えたら痩せないわけがなかった。
しかし体重計の表示はピクリとも変わらない。
絶望感がヒタヒタと迫ってくる。
若い頃なら、そう、30代だったら、もうこの時点である程度の結果が出せているはずなのだ。
どうなってんの。
50代は漫画を読んでダラダラしていたら、新陳代謝が底の底まで落ちるらしい。
もしくは動かな過ぎたばかりに、体が「動物である」という事実を忘れかけている。そういうことかもしれない。
自分は動物なのだと体が思い出すまでの間、荒療治が必要なのかもしれない。
たとえどんなに遅くても、走った方が良いだろう。疾走して風の感触を感じることで、動ける素晴らしさを体に思い出させよう。
でも。歩くだけでも腰が痛い。走ったらますます悪化してしまう。
仕方ない。走るのは体重を少し落としてからだ。
そう考えていた。
でも、実際これでは埒があかなかった。体重が減らないからいつまで経っても走り出せないというジレンマ。
これはアレだ、腰を治すのが1番の課題だ。
それでストレッチを始めた。
ストレッチを始めたところ、とんでもなく体が硬くなっていることに気がついた。
そう言えば最近よく孫の手を使っている。なんて便利なんだろうと思っている。小さな頃、自分が孫の手を使うなんて想像も出来なかった。
ふと思った。
…ブリッジ、いつから出来なくなったんだっけ?
器械体操部だったため、大学生あたりまではトンボ返りや180度開脚などが造作なく出来た。
今そんなことを試したら間違いなく、確実に入院する。何やってんの、バカじゃないのと家族に罵られ、親族を泣かせてしまう顛末にもなりかねない。
でもブリッジはどうだろう。ここ十数年、やろうと思ったことすらない。
どれ試しにやってみるか、と体勢を整えてみた。寝転がって四肢に力を入れる。
「フンッ!」と鼻から変な音をさせながら高々と体を持ち上げようとした。
出来る気がまったくしないだけあって、やっぱりまるで出来なかった。腕も伸びないし、お腹も反らせない。
でもなぜかしつこく、天啓のように、ブリッジが出来ることは大事なことでは?という気がし始めた。
誰かの、「ブリッジ、やりなさい…あなた、ブリッジができるようになりなさい…」という声が聞こえてきた。誰だろう、頭の中で私に語りかけたのは。チビデブおばさんじゃないことは確かだ。
それで「ブリッジ 50代」で検索すると、出てくるのは軒並み「歯のブリッジ」。
50代になると歯がグラついてきがちなので、皆さん、歯のブリッジについて調べていらっしゃる。
私の探している方向性のブリッジの動画は2つしか出て来なかった。
ひとつはオジサンが一生懸命ブリッジのポーズに取り組んでいる動画。結局、頭がついたままの美しくないけど頑張っていることは伝わる画で終わっていた。少し励まされた。
それからトレーナーさんらしき若いお兄さんが、「ブリッジが出来ない人は肩こりや腰痛になりやすいから、頑張って出来るようになろうね!ニコッ」と、大変優しく語りかけてくれる動画。
こんな私にあまりにも優しい声で言ってくれたから、うっかり「うん、頑張るね」と約束してしまった。だってこんなに優しく話しかけられたの久しぶりなんだもの。
それで、歩き始めて10日くらい経ったあたりから、ブリッジを目標にしたストレッチにも取り組むようになったのだった。
それにしても気になる。
ブリッジが出来る人って日本人全体の何割くらいなんだろう。
10年前は出来ていたはずの主人も、今回やってみてもらったところ出来なくなっており、かなりショックを受けていた。
ムスコはこの2年間、サッカーで左右の鎖骨を続けざまに折っているため、いまだ肩まわりのストレッチは怖いそうで試してくれなかった。まあ、多分そんなこと関係なく彼はもともと出来ない。
いつかまた、ブリッジが出来る日が来るだろうか。
達成したらYouTubeにアップしてしまおうか。
今回の私と同じような志をもって検索する人がいたら、きっと、歯のブリッジ動画の中から私の動画を見つけ出し、勇気を出してくれるに違いない。
その人のために頑張ってみよう。そう思っている。