おなかのなかにはなにがある

子育て啓発ダイエット。


"啓発"は自己啓発のことだけれど、"啓発"だけの方が語呂が良いのでそうしている。


この3ジャンルは、本屋さんに行くと、星の数ほどのハウツー本が棚を占拠し、うずたかく平積みされている、と私が信じているBIG3


共通しているのは、


新刊本には事欠かない。


わかりやすい流行がある。


真っ向からバチバチに対立する、正反対のノウハウ、説を提唱する本がある。


一流大学、教授をはじめとする、箔のある権威の名前が表紙や帯を飾っていることが多い。


このことが何を意味するのか。


正解はひとつじゃない、ということを意味するのだろうなと思っている。


人間は1人1人違うのだから、万人に効くやり方なんて存在しません。


そういうことでしょうよ、と。


子育てにしろダイエットにしろ、その道のプロや研究者である著者の皆さんが「こうするといいよ〜」と教えてくれるアドバイスを享受しながら、やはり作戦は自分で立てなければならない。


大丈夫。たとえうまくいかなくても、そのたびに試行錯誤していけば良いのだから。


というわけで、前置きが長くなりましたが、ただ今私は、おなかの中で威張り散らかしているチビデブおばさんを追い出すための試行錯誤を繰り返している。


太めのおばさんがおなかの中に入ってしまった場合について書かれたダイエット本はなく、完全に手探り状態で進めている。


そもそも


摂取→消化吸収→(要らないゴミを)排出


の3ステップを日々こなしている私。


この工程を工場に例えると、


搬入→作業及び製品化→(要らないゴミを)廃棄


といった感じでしょうか。


これでいくと、工場の搬入口のシャッターが人間の"口"ということになる。


口にモノを入れた後は、"おなか"が言わばオートで動いてくれている。


シャッターを開け、適当に持ってきた部品を搬入さえすれば


「あとは現場がなんとかしてくれるでしょ!」


と、捨て台詞を残して引きあげたとしても搬入は搬入。


一方で、搬入後の現場、工場はその時どんな感じなのだろうか。


やみくもに搬入されたあげく、すべての後始末を押し付けてられて怒り爆発、ということにはなってないだろうか。


「搬入がテキトー過ぎてやってられない」


なんといっても本体と同様、現場の作業員たちも高齢化を迎えているのだ。


作業量も作業内容も負荷が大き過ぎる。


飛び込みで不意にやって来る想定外の案件も多過ぎる。気が休まらないし作業に集中できない。


不平不満が募っている。


そうして、いよいよ重過ぎる空気が現場に漂い始めた頃合いで、"彼女"は姿を現したのではないだろうか。


ーチビデブおばさん。


物陰から遠巻きにじっと工場の様子を窺っていた。


最初は少しだけ視線を合わせ、かすかに微笑む。


そのうち、皆の警戒心が薄れてきたタイミングで内部に侵入。
休憩室に入り込み、勝手に茶を入れている。


疲れて休憩所に入ってくる作業員にお茶を出し、さりげなく隣に座って、訳知り顔で愚痴を聞く。


「…わかるわよ」


「…キツいわよね」


などと沁みるセリフを深い相槌とともに返し、最後にポツリと囁く。


「もうやめちゃったら?」


「アンタたちばっかりマジメに働いてるの、私、もう見てられないのよ」


そうして、こう言ったに違いない。


「あそこに積んどきゃいいのよ」


「空いてる場所があるじゃない。あそこに詰め込んどきゃいいのよ。場所がなくなったらね、無理やり押し込んでごらん。広がるのよココ。そういう風に出来てんのよ」


疲れた作業員たちは、最初こそ真面目に、


「そりゃいくらなんでもマズイだろう」


「そんなのすぐにバレるに決まってるよ」


などとざわついていたが、何しろ体がしんどい。


そのうちまんまとチビデブおばさんの企みに乗って仕事をサボりだす。


未許可のバックヤードは広がり続け、もはや最初の広さがどのくらいだったのか誰にもわからない。


この時バックヤードにされている空間こそが、下っ腹とお尻である。そこばかりが集中して太っていく原因はまさにそういうことであった。


そう気づいて以来、私は彼らに「おなかまわり及びお尻の下に空きスペースはありません」ということを断固として伝える活動を始めている。


目下、背中とおなかの一本化に腐心している。本来ここは体幹。固い絆でギュッと一致団結した、太くてしなやかな一本の幹であって欲しい。


ここに在庫を保管してはいけない、ここをバックヤードとして使うのは厳禁であるということを、おなかとお尻に全力で圧をかけて知らしめている。


ギュウッと凹ませて、スペースがないことを繰り返しアピール。


同時に"筋肉"という壁を作る。厚く、硬い壁にして、簡単には広がらないようにしたらどうだろうか。


腹筋背筋ヒップアップ。トレーニングによって硬くすればバックヤードに使えなくなるはずである。


そんなわけで最近やたらと姿勢良く歩いている私。


だがその一方で、頂き物のティラミスを工場に搬入する手が止まらない。


これではいずれストライキが起きるのは確実だろう。


彼らの心を取り戻し、工場のニコニコ経営に向けて、メスを入れるべきはやはり搬入なのだよね。