「お酒がすごく好きな奴」だと、本人の自覚以上に周囲に思われている。
だから主人からは、誕生日も母の日(なぜか母の日にもくれる)もクリスマスも、何かを贈らねばいけないという日には必ず何かしらのアルコール飲料を頂く。
主人だけではなく、たまの来客も、大抵は、
「ここのウチは、酒さえ持ってくれば間違いないだろう」
とばかりに必ずアルコール飲料を持ってきてくれる。
そんなに好きかなぁ…と自分では思うのである。
確かに1番幸せな時間はいつかと聞かれれば、めったに実現できないけれども、間違いなく夕飯を作りながらひっかけている時間である。
(世間ではそれをキッチンドランカーと言うらしい。)
日本酒もワインもビールも、心の底から美味しいと思う。
でも、だからと言って、そんなに好きかなぁ…と思うのである。
そう思うのは私の親族が揃いも揃って私を遥かに凌ぐ酒好きだからかもしれない。
若かりし頃、姉と私の部屋の間に(アルコール類保管のために)設置された冷蔵庫は、いつも空っぽだった。
毎日のように補充するのに、いつ開けても空っぽ。
たまに頂く度数の強い泡盛系の瓶類でさえ、翌日になると空になって、冷蔵庫の前にコロコロと転がっていた。
チョビチョビと飲むことが出来なかった。
父は酒に飲まれるタイプだった。
深夜、帰宅すると父が玄関前に正座で座っており、
「どなたか存じませんが、これで開けて頂いてもよろしいでしょうか」
と、折り目正しく玄関の鍵を渡された。
鍵穴に鍵を挿すというのは泥酔状態ではムズカシイ。
階段から落ちて指の骨を折った時には、病院の先生を前に、酩酊状態の父が、
「折れてな〜い。痛くな〜い。」と手をブラブラさせたから先生はとても怒った。当たり前だ。
かくいう私は、電車に傘をさしたまま乗り込み、近くにいた男性に、
「あ、もう傘閉じても大丈夫ですよ。」
と、教えてもらい、
「ホントだ!すっかり止みましたね。」
という会話を楽しんでいたらしい。
(恥ずかしくて遠目に見ていた友人談。)
酔った頭で「祖母の漬け物用の石にちょうど良さそうだ」と思ってしまい、バス停を持って帰ろうとした時にも、近くにいた方が、
「それは持って帰らない方がいいですよ。」
と教えてくれた。
(これは自分で覚えている。)
でも家族が皆、似たりよったりのエピソードを持っていたから、やっぱり自分が特別だとは全く思わない。
普通じゃないかなと思っている。
普通どころかだいぶマシな方だな、と思ったのは、結婚した主人の話を聞いた時である。
大学の新歓コンパで急性アル中で運ばれたそうだ。
そんなことで救急車を出動させるなんてもってのほか、バス停を持ち帰ろうとするのと同じくらいタチが悪い。
ただ、まぁこれはご立腹、というか呆れるしかない話だが、もうひとつの話を聞いた時は、ちょっと、この結婚は大丈夫だろうか、この血とこの血が結合した場合、あまりよくないんじゃないだろうか、と思った。
それは主人が会社の寮に入って数ヶ月の頃だったそうだ。
いつものように酔っ払い、寮に帰り、何も出来ずそのままベッドに倒れ込んだ。
気絶したように寝ていると、
「あなた!あなた、一体何やってるの!??」
という寮母さんの声で叩き起こされた。
1階間違えたらしい。3階なのに2階の部屋に間違えて入り込み(鍵を開けておいた人が悪い、などと今だにホザいている)朝までシングルベッドで2人揃って気付かず熟睡、朝になって住人が先に起きて「ひぃ〜〜〜」となったようである。
ホラー以外の何物でもない。
私はイヤだ。そんな人は。
でもひょっとして、世間の人から見たら同じ穴のムジナなのかもしれない。
今はまだ未成年のムスコだが、なんとなく風貌からいって、彼の血統の中で唯一ノンアルコールな義母の血を受け継いでいるのではないかという気がしている。
でもそれはそれで良いことではないかもしれない。
なぜなら小学生だった頃でさえ、私が二日酔いだと耳元で、
「あ、そのままで大丈夫だから。朝はご飯炊いたから。あと味噌汁ね、作っておいたから。飲める?ゆっくり起き上がってね。」
などと気を遣っていた。
酔っ払いにこういう優しさは命取りで、酒好きな嫁を呼ぶのではないかと、それなら自分も飲めないとやってられないのではないか、と心配している。