チビデブおばさんの侵略。

男性はよく、
「年を重ねても、心の中には永遠に少年が住んでいる」
などと好意的に言われる。

先日の一件以来、

とうとう、この日が来たという話。 - onoesanとなんやかんや。

私の心の中にはチビデブおばさんが住みついてしまった。

おばさんの中におばさん。少年と違い、少女はキチンと年を重ねたのである。


おばさんの中におばさんなら同じじゃないの?と思われるかもしれないが、性格が全然違うので非常に困惑している。


先日もこんなことがあった。


ATMが混んでいて10人以上並んでいた。

これはかかりそうだと思い、出直すことにした。

「まだ粘って並んでいる人は大変だなぁ…」

そう思いながら向きを変え、歩き出そうとしたその時。


車椅子に乗ったご高齢の女性が、困った顔で並んでいるのを見てしまった。

私だけでなく、私の中のチビデブおばさんも見てしまった。

このおばさんは私よりもずっと人情に厚くおせっかい、正義感を振りかざすタイプである。


早速、並んでいるヒトたちにリサーチを開始する。

「やけに混んでますね。故障でもしたんですかね?」

最後尾から3番目の推定70代の女性が返事をしてくれた。

「おじいさんが入ったきり全然出てこないのよ。急いでるのに困ったわ〜もう。」

話している間にも2人離脱した。

「私、ちょっと見てきますね!」

チビデブおばさんはそう言って、ズカズカと最前列へ進む。

最前列の男性が、屈んで中を覗き込んでいる。

「ちょっと開けてみて、どうしたのか聞いてみましょうよ!」

などと言って、覗き込んでいる方をそそのかす。

「困っているかもしれないし。」

自分の行いを正当化させるべくそう言い放ち、更に前に進み、自動ドアを開けてしまった。


最前列にいた男性の、

「かなりイライラしてるから気をつけたほうが…」

という声がうっすらと聞こえたのはドアを開けてしまってからだ。


とんでもない怒声を浴びた。

「ヒトが使ってるのに勝手に開けるとはなんだ!!」

おじいさんは怒り狂い、勢いで立て掛けていた杖を振りかざしてきた。

私は血の気が引いたはずだが、チビデブおばさんは体型どおり図太かった。

杖を振り上げて向かってくるおじいさんを、後退しながらATMから出るように仕向け、そのままどんどん後退して引き離すのと同時に、最前列の男性に目配せして、「今のうちに」と促したのである。男性は、「ガッテン」とばかりに速やかに中に入った。

その間も、

「ほんと失礼なことしてすみません、ほんとに私ったらごめんなさ〜い」

など、調子よくペラペラと喋って、おじいさんの攻撃力を低下させるべく試みている。

まさしく世間の「おばさん」と呼ばれるヒトたちがやりそうな手口だ。

私はこういうことが出来る性格ではない。

これが「おばさん」になるということなのだろうか。


結局、おじいさんは力尽きて踵を返してくれた。

勝手な推測だが、おじいさんが、公衆の面前でトイレのドアを開けられたかのごとく猛り狂ったのは、手が震えてうまくATMが使えなかったからではないだろうか。

お金のことゆえ、他人に聞くわけにもいかず必死になっていたのかもしれない。

そんなところを人に見られるのは嫌だったし、普通に対応する余裕も持てなかったのではないかという気がする。


最初に返事を返してくれた女性が、

「本当に助かったわ。ありがとう。人間、可愛く年をとらなきゃダメね。ほんと、ああなったら周りが迷惑。私も気をつけなくちゃ。」

と言って帰って行った。


ヒト仕事終えたチビデブおばさんは満足し、大好物の唐揚げを買って家に帰った。

もちろん今日も運動する気なんてさらさらない。

これからもチビデブおばさんは、どんどん前に出しゃばってくる予感しかない。

早く痩せなければ。

かなり焦っている。